03.泡と呪歌
「ララバイ?」
『子守歌…』
「眠りの魔法か何かかしら」
エルザの話は、ララバイというモノについてだった。
封印されていたらしく、恐らくかなり強力な魔法だろうとのこと。
「私も初めは、そう気にはかけてなかった。
"エリゴール"という名を、思い出すまではな」
『!…魔導士ギルド、鉄の森<アイゼンヴァルト>のエース、死神エリゴール…』
「し、死神!!?」
暗殺系の依頼ばかりを遂行し続けて、ついた字。
本来なら暗殺依頼は評議会の意向で禁止されている。
つまり、鉄の森は金を選んだのだ。
結果、魔導士ギルド連盟を追放された。
『現在は、闇ギルドというカテゴリーに分類されている』
「闇ギルドぉ!!?」
「ルーシィ、汁一杯出てるよ!!」
「汗よ!!」
「ハッピー、あまりルーシィをからかうな」
「あい。レインが言うなら」
「あたし、からかわれてたのね」
鉄の森の総長は逮捕され、ギルドは解散命令を出された。
しかし闇ギルドと呼ばれる大半は、解散命令を無視して活動し続けている。
話を聞いたルーシィは体を震わせ、帰ろうかなと呟く。
しかし、それ以外は寧ろ逆だった。
「不覚だった…。あの時、エリゴールの何気づいていれば……全員、血祭りにしてやったものを…」
「だな。その場にいた連中だけなら、エルザ一人で何とかなったかもしれねえ」
「しかし、ギルドまるまる相手となると…」
「ああ。奴等は、ララバイなる魔法を入手し、何かを企んでいる」
私はこの事実を看過することはできないと、判断した。
エルザは其処で区切ると、瞳を吊り上げた。
「鉄の森に乗り込むぞ」
「面白そうだな」
『そうこなくっちゃ!』
鉄の森を倒す。
そう意気込み、歩き出した時だった。
ルーシィが、気づいて声を上げたのだ。
「ナツがいない!!」
そう。
ナツは気絶したままだった為、乗り過ごしてしまったのだ。
今もまだ、ナツは列車に揺られているのだろう。
普通の人ならまだ良いが、何せナツは乗り物が酷く苦手である。
乗っているだけの今でさえ、辛いであろうことは目に見えている。
「何ということだ!!話に夢中になるあまり、ナツを列車においてきた!!私の過失だ…!!取り敢えず私を殴ってくれないか!!」
「まあまあまあ」
「そういう訳だっ!!列車を止める」
エルザは駅員の一人に向かって、叫んだ。
どうやら、彼女の脳内では既に説明は終えているようだ。
しかし、碌に説明も何もされず、列車を止めると言われたって、はいそうですかと許可する訳にはいかない。
すっかり困り果てている駅員を見て、ルーシィは溜め息を吐いた。
「妖精の尻尾って、やっぱり皆こんな感じなんだ…」
「オイ、俺はまともだぞ」
『露出魔はまともとは言いません』
「くっ…」
「うん、まともなのはルナとレインだけね」
「そうか?」
『ありがと、ルーシィ』
なんて、ほのぼの会話をしている時だった。
エルザが緊急停止信号を見つけ、ハッピーに作動させてしまったのだ。
「ナツを追うぞ!!」
『はいはい。じゃあ私は魔動四輪車借りてくるから大人しく待っててね。レインは見張り宜しく』
「ああ」
「本当…ルナ達だけが救いだわ」
それから、魔動四輪車を借りてきたルナは、全員が乗ったのを確認すると、SEプラグを腕につけて走らせた。
そのスピードは凄まじく、車の中がシャッフルされる。
車内でなく、上に乗っているグレイは、捕まるのに一生懸命だ。
「おい、飛ばしすぎだ!!すぐ魔力切れになっちまうぞ!!」
『大丈夫よ。それより、何か嫌な予感するんだよね。早くナツと合流しないとっ!!』
更にスピードを上げて、未だ止まって居るであろう列車へ向かう。
暫く走れば、目当てのそれが見えた。
予想通りまだ止まっているのを見て、ひとまず安心…
「おわぁあああっ」
…したのも束の間。
列車の最後尾近くまで行けばそれは動き出し、直後叫び声と共にナツが飛んできたのだ。
ルナはそれを見て慌ててスピードを上げる。
「何で列車から飛んでくるんだよォ!!?」
『グレイ、受け止めて!!』
ゴチーン
「「ぎゃあああっ」」
キキィィッ
額をぶつけ、落ちたナツとグレイ。
ルナは急ブレーキをかけて魔動四輪車を止め、先に降りたエルザ達の後を追いかけた。
置いていくなんて酷いぞと、抗議するナツ。
無事で何よりだと抱きしめたエルザに、ナツは無事じゃないと一言。
どういう訳か。
訊けば、列車で絡まれたらしい。
「何つったかな?アイ…ゼン……バルト?」
「「「『!』」」」
「バカモノぉっ!!!」
バチィッ
「ごあっ」
『うわ、痛そー』
鉄の森は自分達の追っている者だと。
何故話を聞いていないのかと、怒るエルザ。
しかし、ナツはそんな話は初耳である。
何せ、エルザ自身によって気絶させられていたのだから。
それでも何も誰も言わないのは、無駄だとわかっているから。
後を追うと意気込むエルザ。
どんな特徴かとナツに訊ねた。
しかしナツが答えたのは、三つ目のドクロのような笛を持っていたということだけ。
どうやら、それ以外にこれといった特徴がなかったらしい。
『ドクロ…んー…どこかで…。あら?どうかした、ルーシィ?』
「ううん…まさかね。あんなの作り話よ…でも…、もしもその笛が呪歌だとしたら…、子守歌<ララバイ>…眠り…死……!!!!!
その笛がララバイだ!!
呪歌<ララバイ>…"死"の魔法!!!」
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