02.泡と妖精女王

あれから暫く話を繰り広げていたルナとルーシィ。
その様子は、今日出会ったばかりとは思えないほど、仲良さげに見えた。
ミラはその様子を、姉のように優しく見守っている。





『あ、そー言えば噂で聞いたんだけど、多分ルーシィのことかな』

「え、何を?」

『妖精の尻尾の新人がね、傭兵ゴリラを薙ぎ倒したって』

「え゛」

『凄いね、ルーシィ!!』

「いや、あの…。
(もう否定するのも面倒くさい…)」





傭兵ゴリラではなく、傭兵ギルド"南の狼"の二人とゴリラみたいな星霊。
しかも、倒したのはナツであり、ルーシィではない。
グレイやらミラやら、色々な人に間違えられ、いい加減訂正するのも面倒になっていた。
何より、目の前でニコニコと笑うルナを見ていると、そんな細かいことがどうでもよくなってきていたのだった。





「やぁ、ルナ。いつ帰って来たんだい?」





そんな時、現れるなりルナの隣に自然に座り、さり気なく腰に手を回してきたロキ。
初めこそ赤面して恥ずかしがっていたが、口説いているときはいつもこうなので、最近ではルナ自身、どうでもよくなっていた。
とは言っても、彼女は口説かれているなど、微塵も思っていないのだが。
それに加え、まだ彼女の隣にいるルーシィには気づいていないようである。





『あれ、ロキ!久しぶりー』

「本当、久しぶりだね。僕はルナに会えなくて寂しかったよ。どうだい、今夜二人で愛の──」

「マズいぞ、ナツ、グレイ!!」





突然、ロキの言葉を大声で遮り、ギルドの魔導士が駆けてきた。
注意したの先は、いつの間にか喧嘩を始めていたナツとグレイ。
何事かと、誰もが耳を傾けた時だった。





「エルザが、帰ってきた!!」

「「「!!」」」

「なっ…て、ルーシィ!!?」

「気づくの遅っ!」





エルザが帰ってきた。
その言葉で周りの雰囲気が変わった。
ロキも、今まで気づいていなかったルーシィの存在に気づく。
彼は星霊魔導士が苦手だ。
必然的に、ルーシィも苦手ということになる。
それだけではない、今帰ってきたというエルザ。
ロキは昔彼女を口説いて、半殺しの目に遭っている。
二人も苦手な人物がいるのだから仕方ないだろうが、ロキはそそくさと帰って行った。
それとほぼ、入れ違いだろうか。
巨大な角を担いだ女性…エルザが現れたのだ。
どうやら、討伐した魔物の角を持ち帰ってきたらしい。
エルザはそれをギルド内に置くと、辺りを見回した。





「また問題ばかり起こしているようだな。総長<マスター>が許しても、私は許さんぞ」





言うが早いか。
直後には、カナやワカバなどの問題点をどんどん指摘してゆく。





「全く、世話が焼けるな。今日のところは何も言わずにおいてやろう」





それでも彼女にとっては、序の口らしい。
そんなエルザの様子を、ルナはニコニコしながら眺めていた。





「ところで、ナツとグレイはいるか?」

「あい」

「や…やあ、エルザ。お…俺達、今日も仲良し…良く…や…やってるぜぃ」

「あ゛い」

「ナツがハッピーみたいになった!!!」





がっしりと肩を組み合い、必死に仲良しアピールをするナツとグレイ。
彼らは、エルザが怖いのだ。
ナツは喧嘩を挑んでボコボコに。
グレイは裸で歩いているところを見つかって、ボコボコに。
ロキまではいかないが、酷い目にはあっている。





「──ん?ルナじゃないか」

『あ、やっと気づいた』

「いや、すまない。私より遅くなるかもしれないと、出掛けに言っていたから、まだ帰ってきていないのかと思ってな」

『ああ、思ってたより弱かったからさ。ちゃっちゃと済ませて帰って来ちゃったの』

「そうか、怪我はないか?」

『うん、へーき。エルザは?』





私も、大事ない。
微笑むエルザに、ルナは嬉しそうに微笑み返した。
普段厳しいエルザだが、そんな彼女もルナには甘いところがある。
不思議そうにしていたルーシィに、ミラは微笑みながら説明を加えた。





「うむ、ルナがいるなら更に安心だ。実は三人に頼みたいことがある。力を貸してほしいんだ。ついてきてくれるな」

「え!?」
「はい!?」
『ん、いいよ』
「軽っ!!」





エルザが力を貸してほしいと、頼んだ。
それだけでギルド内は、ザワめきだす。
無理もないだろう。
エルザが仕事に人を誘うのは、滅多にない。
かなり難しい仕事の時のみ、ルナに力を借りるときはあるのだが。
エルザは出発は明日だから準備をしておけとだけ言い、ザワめくギルドを後にした。
エルザが居なくなった後も、ザワめきは止むことはない。
そんな中、ポツリとミラが呟いた。





「エルザと…ルナと…ナツと…グレイ…。今まで想像したこともなかったけど…」

「?」

「これって…妖精の尻尾、最強チームかも…」





*****


『ごめーん、遅くなった!!』





翌日、約束通りにマグノリア駅に来た、ルナとレイン。
其処には既に、他のメンバーが集まっていた。





「おせーよ、ルナ、レイン!!」

「すまないな。ルナが寝坊した」

『あ、言わないでよレイン!!でもごめんね』

「構わねーよ。ルナも疲れてんだろ」

「ああ。寧ろ、仕事が終わった翌日にすまないな」

『それはエルザも同じじゃない。そう言えば、ルーシィは何で此処に?』

「ミラさんに頼まれて…」

『ああ…』
「なるほどな」





そんな他愛もない会話をし、機関車に乗り込む。
するとすぐにダウンしたのが、ナツだ。
乗り物に弱い彼は、乗り物に乗るとすぐに酔ってしまう。
エルザは仕方ないなと、そんなナツを横に座らせた。



ボスッ

「「「!?」」」

『あらま…』

「少しは楽になるだろう」





あろうことか、エルザはナツを気絶させるという手段をとった。
気絶したナツは、エルザの膝に頭を乗せて横になっている。
ルーシィ、グレイ、ハッピーは、改めてエルザの恐ろしさを確認したのだった。





「そういやあたし…、妖精の尻尾でナツ以外の魔法、ちゃんと見たことないかも」





ルーシィのそんな一言から、話題は魔法の話に。
エルザの魔法はどんなのか、と言う問いにはハッピーが答えた。





「エルザの魔法は綺麗だよ。血がいっぱい出るんだ。相手の」

「綺麗なの、それ…」

「たいしたことはない。私はルナやグレイの魔法の方が、綺麗だと思うぞ」

「そうか?」





エルザが言うと、グレイは自分の魔法…氷の造形魔法で、妖精の尻尾のマークの立体を作り上げた。
それを見たルーシィは、綺麗と歓喜する。





「氷って、アンタ似合わないわね」

『言えてる』

「ほっとけっての」

「?…氷、火。…あ!
だからアンタ達仲悪いのね!!」





単純すぎて可愛いなんて、笑うルーシィ。
エルザにバレないようにか、図星をつかれたためか、グレイはどうでも良いだろうと視線を逸らした。





「それよりも!ルナの魔法、見せてやれよ」

『ん、ああそうだね』





何とか話題を逸らすことに成功したグレイ。
そうとも知らず、ルナは微笑んで、右手の人差し指を立てた。
すると其処に、小さな水の渦が現れた。
そして其処から、小さな泡がふわふわと飛ぶ。
幾つか宙に浮くと、ルナはパチンと指を鳴らす。
いつの間にか中に入っていたらしい花の種が、ルーシィの掌に落ちた。






「?」

『さ、見ててね』





ルナはそう言うと、もう一度パチンと指を鳴らした。
するとどうだろう。
種から芽が出、葉をつけ蕾をつけ、あっという間に一輪の可憐な花と化した。





「す、すごい…!」

『色々な魔法を重ねてるの』

「最初のが水魔法、次に風魔法で泡を飛ばし、最後に植物魔法で花を咲かせた」

「な、綺麗だろ?」

「ルナはよく、私達にショーを開いて見せてくれたな」





グレイは自分のことのように、エルザは懐かしむように。
ルーシィはそんな二人を見て、頬を緩ませた。





「(温かい、ギルドだな…)」

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