01.泡と友達

「──ねぇ、ミラさん」





金色の髪の少女、ルーシィは不意に眼前の女性、ミラジェーンに声をかけた。
ルーシィが座っているのは、魔法ギルド"妖精の尻尾"のカウンター席。
ミラジェーン…ミラは、カウンターの向こうで、グラスを拭いていた。





「何?ルーシィ」

「さっきから、皆から"ルナ"って名前が沢山聞こえてくるんですけど…」





誰なんですか、ルナって。
不思議そうに首を傾げるルーシィを見て、ミラはクスリと笑った。





「ルナ・クラウディア。妖精の尻尾<ウチ>の魔導士よ」

「へぇ…」

「ナツと同じでね、滅竜魔導士<ドラゴンスレイヤー>なの。もう、すっごく強いんだから!!」





嬉しそうに微笑むミラ。
ルーシィは彼女の言葉に、ただ驚く。
滅竜魔導士なんて、そうそう居る者じゃない。
それが、同じギルド…しかも自分の所属ギルドに、二人も居るというのだ。
此が、心躍らずに居られようか。





「おまけに優しくて明るくて、街の人達からも好かれてるのよ。子供達なんて、ルナをみたら目を輝かせて駆け寄ってくるわ」

「へぇ…!いいなぁ、あたしも早く会ってみたいな…」

「あら?今日中には会えると思うわよ。だって──」

『ただいまーっ』

「今朝、連絡あったんだもの」





クスリと笑うミラ。
ただいまと言う言葉のした方には、薄い金色の髪の綺麗な少女が立っていた。
彼女の姿を見つけた周りは、一気に彼女に駆け寄る。
もみくちゃにされながらも笑顔は絶やさず、一人一人と対話する彼女。





「まさか、あの人が?」

「そ、ルナ・クラウディア!!」





*****


『ふぅ…あら、新人さん?』





やっと解放されたルナは、ルーシィの隣のカウンター席に座った。
ミラにエスプレッソを頼むと、彼女の存在に気づき、そんな質問を投げかける。





「あ、初めまして!あたし、新人のルーシィといいます。宜しくお願いします」

『ルーシィね?私はルナ・クラウディア。ルナって呼んで?あ、あと敬語はなしで』

「は…うん!宜しくね、ルナ」





握手を交わしながら、微笑むルナ。
ルーシィは、ミラの話から想像していた以上の人物に、歓喜していた。
会って間もないが、彼女が好かれる理由が分かったような、そんな気分だった。





「お疲れ様、ルナ。今回の仕事はどうだった?」

『んー、ちょっと疲れちゃったかな。何せ、闇ギルド関わってたし…』





ま、潰して評議員に引き渡して来たけどね。
笑顔で告げたルナ。
ルーシィは、彼女は本当に強いのだと、唾を呑んだ。
普通、闇ギルドを潰して来たなんて、サラリと言えるような簡単なことじゃない。
ルーシィは友人の頼もしさに、素直に感心していた。





「ルナーっ、勝負だー!!」

『ナツ!?』

「おいナツ、止めろ!!」





突然、ほのぼのした空間の中に飛び込んできた少年、ナツ。
勝負しろ、と五月蝿い彼を、追いかけてきた少年…グレイは、注意するように止めた。





『ナツ…勝負はまた今度に…』

「そうだぞナツ、ルナだって疲れてんだよ!!」

「うっせえぞグレイ!!ルナはこの間約束してくれたんだ!!」





あくまでも戦うと五月蝿いナツ。
当然の如く、グレイの言うことなんて聞かない。
そんな彼に、ルナが溜め息を漏らした時だ。





「ナツ、それ以上ルナを困らすな」

「レイン!」

「え、何この猫!!」





ハッピーみたい。
ルーシィの視線の先には、ルナのエスプレッソの隣。
其処には、黒い毛並みの猫がいた。
ナツの相棒のハッピーのように、喋る猫。





「ハッピー、レイン足止めしといてくれって言っただろー!」

「ごめんねナツ、オイラも完全に止められなかったよ」





どうやら、レインは今までハッピーに足止めを食らっていたらしい。
ナツがルナに決闘を申し込む為に。
しかし結局は無駄で、レインはこうしてルナの元まで戻ってきてしまった。





『あ、ルーシィは初めましてだよね。このコは、レイン。私の相棒なの!!』

「宜しく頼む、ルーシィ」

「此方こそ!」

「なぁ、ルナー」

『やーだ』





ルーシィとレインが自己紹介をしている合間にも、ルナに勝負を挑み続けるナツ。
まあ、悉く断られているが。
グレイは、そんなナツに完全に呆れていた。





「くっそー、こうなったら!!」

「あ、馬鹿!!」





強硬手段だ!!
言うが早いか、ルナに向かって攻撃を仕掛けるナツ。
ルナは呑気にエスプレッソを飲んでいる。
ルーシィが、危ないと叫ぼうとした時だ。



ビュォオッ


「うおっ!?」


ドゴォッ



突然吹いた突風に飛ばされ、ナツは壁にめり込んだ。
あまりの出来事に、ルーシィは目を丸くする。
突風と言っても、吹いたのはナツにだけ。
他は、何ともないのだ。
考えられるのは、ただ一つ。





『はい、ナツの負けー』





彼女、ルナ・クラウディアだった。
壁から落ちるナツ。
周りはそれを見て、また負けたのかとかよくやるなとか、笑いながら声をかける。
どうやら、毎度勝負を挑み、毎度負けているようだ。





「今のは、ルナの風魔法だ」

『グレイ、服』

「うおっ、またやっちまった…!!」

「え、待って?風魔法って…ルナは、光の滅竜魔導士じゃ…」

「ふふ。全ての魔法<オールマジック>」

「全ての魔法<オールマジック>…?」

「そ。光の滅竜魔導士はね、全ての魔法が使えるの」

「ええ!?嘘…!!」

「本当。ルナだけ、だけどね」

「すごい…」

『大袈裟だよ…』





照れて頬を赤らめるルナ。
その可愛らしさに、グレイもルーシィも頬を赤らめた。
ミラは癒やされるとでも言わんばかりに微笑み、ルナの頭を撫でた。





「ルーシィは…"光の竜"って本知ってる?」

「え?…はい。あたし、その本大好きですから」





じゃあ話が早いわね。
ミラは微笑むと、大まかなあらすじを語った。
昔、世界に突然光がなくなった時代があった。
困り果てた人々。
それを救ったのが、光の竜。
しかしそれで莫大な力を使ってしまった竜は、衰退。
死にそうになっていた竜を、今度はあらゆる力を持った人々がその力を竜に与えた。
復活した竜は、未来永劫人々を護ることを誓う。





「御伽噺よ。でも、ギルドの名前が"妖精の尻尾"なんだもの。これくらい、信じたって良いはずよ」

「そうですね。うわー…、でも嬉しいな。私、その竜に憧れてたから」

『そうなんだ』

「うん。だからって言う訳じゃないけど、やっぱりルナと友達になれて嬉しい」

『!、わ、私も嬉しいよルーシィ。これから宜しくね』

「うん!」

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