31.ゴンタクレ

やってしまった…。
いくら銀髪さんに腹が立っていたとはいえ、嫌いですは言いすぎだった気がする。
否、でもあれは元はと言えば銀髪さんが悪いです。
誰狙いとか、失礼ですよ。
全員が全員、イケメン好きだとか思わないで欲しいです。
小さくため息を吐き、各校から回収したタオルとボトルを見つめた。





「ーーコシマエエエエエエ!」

『…へ?』





な、何?
今、コシマエって…。
と言うか、コシマエって何?
何かの方言でしょうか?
そんな呑気なことを考えていると、物凄い足音が聞こえてきた。
驚いて振り返ると、物凄い土煙が立っていて。





『な、何事!?』

「コシマエエエエエエ!」





否だからコシマエって何ですか!!?
と言うか、コッチに向かってきてる…!
逃げないと…!
慌てて逃げようとするけれど、距離的にもタイミング的にも不可能だった。
よけきれなかった私は物の見事にその何かとぶつかり、転倒。
恥ずかしながら、尻餅をついてしまいました。





『い、たたたたた…ん?、君は…』

「きんたろおおおおおおお!」

「し、白石!」

『白石?やっぱり、金ちゃんだ!』

「「へ?」」





久しぶりー!
ぎゅーっと抱きしめると、金ちゃんも私が誰だかわかった様子。
目を輝かせて私を見た。





「琉那や!」





ワイ、会いたかったんやでー!
そう言って抱きついてくる金ちゃんは、本当に可愛いです。
あ、でもちょっと苦しいかな。
私の身体が軋むような音が…あたたたた。





「み、水神さん!?金ちゃん、水神さん離したり!」

「嫌や!」

「水神さん死んでまうわ!金太郎、離さへんなら…」


シュルルル…



途中で言葉を区切り、手に巻いた包帯をスルスルと解いていく白石さん。
それにつれて、金ちゃんの顔がどんどん青ざめていった。
どうしたんだろうか?
金ちゃんは遂に、震え出した。





「ど、毒手は嫌やぁ!」

『ど、毒手!?』





毒手とは何ですか!?
え、あの手に毒が!?
そ、そんな…!
じ、じゃあ白石さんは人外!?
色んなことをぐるぐる考えていると、いつの間にか金ちゃんは離れていた。
身体の痛みが消えたので、すぐにわかった。
顔をゆっくり上げると、白石さんの申し訳なさそうな表情。
あれ、どうしたのかな?





「すまんな、大丈夫か?」

『え?…あ、大丈夫です!』

「なら良かったわ」

『あ、あの!』

「ん?」

『白石さんて…人外だったんですか?』

「……………は?」





何言ってるんだコイツみたいな顔!
あ、やっぱり隠してるのかな?
そうだよね、人外だなんて知れたら大変だもんね!





『だ、大丈夫です!私誰にも言いませーー』

「ぷっ…ははははは!」

『へ?』

「ほ、ほんまおもろいなぁ、水神さんは」





え?
おもろい?
私何か面白いこと言ったかな?
尚も笑い続ける白石さん。
笑いが止まったのは3分後でした。





「すまんな、笑ってもうて」

『い、いえ』

「あんな、毒手は嘘やねん」

『え!?』





嘘!?
近寄って小さな声で言われたのは、毒手は嘘だと言う真実。
傍で見ている金ちゃんは、不思議そうに首を傾げた。
そんな金ちゃんには聞こえないように、白石さんは小さな声で続けた。





「ゴンタクレやからな。これくらいしいひんと、聞かへんのや」

『な、なるほど…って、じゃあ私…!』





は、恥ずかしい!
何て醜態を晒してしまったんだろう!
普通に考えれば分かるのに…。
白石さんに笑われるのも無理ないです。
恥ずかしさで熱くなる頬をおさえながら、小さく溜め息を漏らした。





「否、でもな?水神さん可愛かってんで?」

『へ?』

「こんな単純な嘘信じてくれる純真なコ、俺今まで会うたことあれへん。せやから、その…」

「何顔赤らめてブツブツ言っとるんスか、部長。キモいっスわ」

「何やと!?…て、光お前いつからおったんや?」

「"否、でもな?"のとこから」

「一番聞かれたくないとこやないか!」





白石さんは叫んで、恥ずかしいわと顔を赤くしている。
その内に、光君は此方を向いて久しぶりやなと少しだけ微笑んでくれた。
うん、久しぶり!
ふわりと笑うと、光君に頭を軽く叩かれた。
あれ、何でだろう?
私の扱い酷いです、光君。





「お前、無闇に笑顔振りまくの禁止や」

『え、それ皆にも……、私の笑顔ってそんなに悲惨…?』





だとしたら、私何てことを!
見苦しいものを見せてまわってたの!?
一人ネガティブな方向へ思考を持っていく私。
光君はそんな私の考えていることがわかったのか、呆れたように溜め息を漏らした。





「ちゃうわ、あほ」

『あほ…!』

「お前はあほやわ。よーくわかった」

『う…』





そ、そんなにあほあほ言わなくても。
反論しようとしたけれど、やめた。
抗議の言葉が見つかりません…!
しょんぼりと、はたから見たらかなり落ち込んでいるように見えたかもしれない。
光君が、少し慌てているように見えた。
それが何だか可笑しくてクスリと笑うと、それに気づいた光君に殴られた。
痛いです。
その後、一部始終を見ていたらしい小春ちゃんに、女の子に乱暴をするなと説教されていた光君。
笑ったらまた頭を叩かれそうなので、私は一人で笑いを堪えていた。
後に光君にキモかったと言われてショックを受けるとは、その時の私は知らない。

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