28.いざ、合同合宿へ

「じゃあ、呉々も気をつけてね」

『うん、わかった』

「何かあったら、すぐ僕に相談するんだよ?…まあ、百歩譲って伯父さん達でもいいけどさ」

『ふふ…うん、すぐに雪兎に相談する』





約束。
指切りをして、笑った。
荷物を持って、玄関のドアを開ける。





『それじゃあ、行って来ます!』





今日から一週間、合同合宿。
臨時マネージャー、頑張ります。





*****


『…遅いですね、リョーマ君』

「…ああ」





合宿当日。
楽しみで、待ち合わせ時間より一時間ほど早く来てしまった私。
まだ、誰もいなかった。
それから暫くして大石先輩が来て、色々合宿について聞いていたら、他の人達も来た。
と言っても、この合宿はレギュラーと、準レギュラー何人かしか参加しないらしく、一校十人に満たない。
だから、全員集まった…と言ってもそんな感じがしなかった。
時間ギリギリになると、竜崎先生と話を終えた手塚先輩も来た。
普通だったらこれで出発できる…のだけれど、一つ問題点。
青学レギュラーただ一人の一年生、越前リョーマ君。
彼が来ていないのだ。
もう待ち合わせ時間、十分を過ぎようとしている。
隣の手塚先輩をチラリと見ると、かなり眉間に皺が寄っていた。
手塚先輩、皺がとれなくなっちゃいますよ…!?
この年で皺がとれなくなるのは辛いです。
言いたいけれど、言えるはずもなく。
心の内にそっとしまう。





「越前は中学の時から遅刻魔だからね…」

『え、そうなんですか?』

「うん。大事な大会とかでも遅刻してたよ」





不二先輩は、そう言って苦笑する。
大変御苦労なさってきたんですね…。
心中お察しします。
それにしても…、もうそろそろ来ないと。
これから乗るバスは、跡部財閥のバス。
行き先も跡部家の別荘。
つまり、景ちゃん…氷帝が主催だったりする。
遅れたら、景ちゃんに何か言われそうだなぁ。
だから氷帝のバスに乗せてやるって言っただろ……とか。
氷帝のバスに乗っていけって言われたけど、断った。
いくら監督の姪だからって、それは可笑しいです。





「──遅れました!」

『!』

「遅いぞ越前。十分以上の遅刻だ」





リョーマ君に歩み寄り、注意する大石先輩。
竜崎先生も加わって、頬を抓られている。
大変痛そうです。
因みに手塚先輩は、眉間の皺はとれたものの、呆れたような溜め息を吐いていた。





「ほら、行くよ。これ以上の遅刻はもっと良くない」





竜崎先生に促され、バスに乗り込む。
ああ、やっぱり人数が少ないから、一人でも座れる。
三半規管弱いから、タイヤの上は避けたいなぁ。





「琉那!」

『桃…?』

「一緒に座ろうぜ」

『え?いいけど…一人で座れるよ?』

「ま、細かいことは気に──」

「するにゃ!」

「『!』」





び、びっくりした。
桃の後ろから、菊丸先輩が現れる。
ど、どうしよう?
何か二人とも言い合い始めちゃった。
私、どうすれば良んでしょう?





「全く、仕方ないねえ。琉那、手塚の隣に座りな。いいね、手塚、琉那?」

「はい。俺は構いません」

『私もです』

「なら決まりだ。ほら、座った座った」





良かった、竜崎先生が決着をつけてくれました。
漸く出発出来る。
桃と菊丸先輩が何か言ってるけど気にしません。
合宿、頑張ろう…!





*****


あと十分くらいで着くらしい。
結構遅れちゃったな。
到着予定時刻より、二十分も遅れてる。
クスッ…跡部にまた何か言われるかもね。

ふと隣の席を見ると、あるのは自分の荷物。
通路を挟んで隣を見れば、手塚。
その隣には、水神さん。
何か二人で話しているけど、多分合宿のこと。
大石にも聞いてたみたいだけど、それは僕達でも知っている程度のこと。
水神さんは一応、マネージャーという名目にあたるポジション。
臨時とは言えマネージャーだし、色々あるんだと思う。
でも…手塚の隣、か。
ねえ手塚、気づいてる?
君の仏頂面も、水神さんの隣ではほんの少しだけど、和らいでることに。
手塚が水神さんを気に入っているのは見ればわかる。
でもそれが、マネージャーとしてなのか、後輩としてなのか、あるいはまた違う意味でなのかはわからない。
……でも、それは僕も同じなんだよね。
だから正直、手塚が羨ましい。
僕のこの気持ちも、どれに当てはまるのかわからない。
もしかしたら、この合宿でわかるかもしれないね。
だから…帰りのバスは、隣に誘ってみようかな。

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