26.優越感

『ここ…何処…?』




皆さんと分かれたところまでは良かったんですけど…はい。
迷子です。
どうしよう…、やっぱり大丈夫じゃなかった。
送ってくれると皆さんが言ってくれたけれど、練習の邪魔になるのは嫌だからと断った。
けれど私は忘れていました。
自分が生粋の方向音痴だということを。





『はぁ…』





どうしましょう?
と言うか、誰かに道を訊くしかありませんよね。





「どぎゃんしたと?」

『え…?』





突然、声をかけられた。
訛りと口調からして、九州。
驚いて振り返ると、とても大きな人が立っていた。





『おっきい…』

「よく言われるたい」

『!』





う、うわ…!
私、声に出しちゃった!!
は、恥ずかしい。





「それで…、どぎゃんしたと?」





どぎゃんしたと?
って、もしかして心配して声をかけてくださった!?
や、優しい人だなぁ…。





『す、すみません。迷子になってしまって…』





でも、恥ずかしいです。
高二にもなって迷子…。
落ち込んでいると、頭上から笑い声。
あぁ、デジャヴです。
確か、リョーマ君と不二先輩にも笑われました。





「面白か娘ばい」

『お、面白い娘…』

「ええよ。俺についてくるとよか」

『!道案してくださるんですか?!』

「おん。困った時はお互い様ばいね」

『ありがとうございます!』

「!」





嬉しさのあまり、へにゃりと笑みを零す。
するとお兄さんは、瞬時に私から顔を逸らした。
え、私何かした?
知らない間に失礼なことを言ってた、とか?
そんなことを悶々と考えていると、お兄さんが歩き出した。
私はそれに気づくと、慌てて追いかける。





「(むぞらしか娘たい…)」

『あの…』

「!…何ね?」

『私、水神琉那て言います。高二です』

「水神さんやね。俺は千歳千里、高三。呼び方は何でもよかよ」

『あ、じゃあ千歳さんで』





そう言って千歳さんを見上げると、彼はふわりと笑った。
そして優しく、頭を撫でてくれる。
うわ、千歳さんの手大きい。
温かいし、何か眠くなっちゃいそう。





「歩きながら寝たらアカンよ」

『え、私口に出してました…?』

「眠そうな顔だったとよ」





う、わ…!
ま、また顔に出てた!!
どうしよう、恥ずかしい。
今度、ポーカーフェイスの練習でもしようかな…。

そんなことを考えた後、千歳さんと他愛もない話をしていると、いつの間にか目的地に着いていた。
良かった…、これなら新幹線の時間に間に合う。





『千歳さん、ありがとうございました!』

「気にせんでよかよ。水神さんと話せて楽しかったばい」

『私もです!私も、楽しかったです』





ならよかとね。
千歳さんはふわりと笑う。
その様子はふわふわしていて、男の人なのに思わず可愛らしいと思ってしまった。
何だろう?
こう…纏う空気が、ふわふわ?
あれ?
でもこれこの前、私が未香に言われたような…。
気のせい、かな?
うん、きっと気のせいだ。
私と千歳さんの纏う空気が、同じはずない。
私こんなに可愛らしくない。





「水神さん?」

『!…は、はい。何でしょう?』

「せっかく会ったと。これも何かの縁たい。アドレス交換せん?」

『!、勿論です!!…へへ、何かお友達が増えたみたいで嬉しいです』

「俺もたい」





アドレス交換をしてる間にも、私の頭を撫でてくれる千歳さん。
その手はやっぱり大きくて、温かかった。





*****


琉那が帰った後、練習を始めた俺達。
いつも通りの練習。
けど、どこか違う。
それは、部員達の会話内容。





「なあ白石!ワイ、琉那に飴もろた!!」

「良かったな、金ちゃん。やっぱり優しい娘やなぁ。んんーっ、エクスタシー!!」

「小春の良さがわかるとは中々見所あるわ!」

「琉那ちゃん可愛いかったわぁ。な、謙也君?」

「…」

「水神はん。オモロい方でしたな、小石川はん」

「せやな。平和な人言われたんは、初めてや」

「水神さん、随分ウチの奴らに懐かれたみたいやなぁ」





金ちゃんは琉那に会いたい五月蝿いし、部長はエクスタシー言いまくっとる。
ホモップルは普通に五月蝿いし、謙也さんは惚けとる。

……何やねん、この状況。
アイツ抜けすぎやねん。
もう少し警戒心持たんかい。
……何で俺、こんな苛々しとるん?
ホンマ今日の俺は可笑しいですわ。





「──ん、もう練習は終わったと?」





色々考えとったら、暫く聞いとらんかった先輩の声が聞こえた。
…この人も随分抜けとったな。





「千歳!お前、また放浪しとったんか…」





部長が呆れたように溜め息吐いとるけど、しゃあないっスわ。
この人の放浪癖は治らんやろ。





「そう言えば、途中で変わった娘ば見つけたと。黒髪のセミロングのむぞらしか娘やった」

「「「!」」」





黒髪セミロング?
変わった娘?
生憎、そんな女俺は一人しか知らん。





「…水神琉那、ですか?」





気づいたら口に出しとった。
先輩達は皆驚いて俺を見とる。
何や…、鬱陶しいねん。





「水神さんを知っとたと?」

「水神さんやったんか!?」

「何ね、白石も知っとたと?」

「白石だけやないで?コイツら全員しっとるわ。今日此処に来たんやからな」

「そうだったんね。なら、その後で迷子になったばい」

「は、迷子?」





思わず、声を出した。
高二で迷子って何やねん。
やっぱアイツ、変やわ。
周りを見れば、白石部長達も皆笑っとる。





「ははっ、水神さんやっぱオモロいわ!」





……オモロない。
アイツが迷子になったこと自体は、オモロいわ。
けど…、何かオモロない。
つまらんのや。





『光君、白石さん、忍足さん、金ちゃん、小春ちゃん、一氏さん、石田さん、小石川さん。今日はありがとうございました。さようなら!』





苛々する。
…けど、あの時の白石部長達の顔を思い出したら、少し優越感に浸れた。
気紛れやったけど、名前呼びにさせて良かった思てる自分がおる。
何でやろな。
それに…今思えば、初めて会うた気がせんのや。
ホンマ…、今日の俺は可笑しいっスわ。

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