25.呼び方

「じ、じゃあ…財前が助けたん?」

『はい!光君、優しいんですね。見ず知らずの私なんかを助けてくれました』

「ぶふっ…!」
「くくっ…」

『?』

「…」

「はっはっはっ、もう我慢できひん!」

『へ?』





突然笑い出した包帯さん達。
あ、包帯さんっていうのは、このミルクティー色の髪の人が、手に包帯をぐるぐる巻きにしているから。
他の人は…よくわからないです。





「…先輩方笑いすぎっスわ」

「やって、財前が人助け?ちゅーか、水神さんやったか?君も中々変わっとるで!」





黙れヘタレスター。
ボソッと光君が呟くと、ヘタレスターさん(?)が、何やと財前、と怒りだす。
何か、愉快な場所だなぁ…此処。
何か、楽しいです。





「ねえ!」

『?…はい』

「琉那ちゃんて呼んでも良いかしらん!」

『はい!えと…』

「こ・は・る!あたしは金色小春。小春でええよー!」

『こ、小春ちゃん…!』





うわぁ…、嬉しい…!
大阪でお友達ができました!!
あ…でもさっき光君が先輩方って…。





「小春、浮気か!死なすど!」

『あ、あの…三年生、ですか?』

「そうよーん!光と其処におる金ちゃん以外は、三年生やで!」

『あ、じゃあ小春さん?』

「やーだ、小春さんだなんて堅苦しい!小春ちゃんでええよ、琉那ちゃん」

『!…はいっ、宜しくお願いします小春ちゃん!!』





小春ちゃんの手を握って目を輝かせれば、驚く周囲。
え、私変なことしちゃいました…?





「自分、益々変わった娘やなぁ」

『え、…え!?』





私、そんな変わってるんでしょうか?
と言うか、今の会話のどこらへんで判断された…!?
気づかない内の失態ですか!!?
そんなことを思っていたら、包帯さん達が笑い出す…、え?
もしかして声に出てた…?





「ひ、一人百面相しとったで…っ」

『…!』





声じゃなくて顔ー!?
うわぁ、恥ずかしい!!
もう、此処に来てから醜態しか晒してない気さえしてきます…!
もう嫌…!
すっかり落ち込んでいると、数時間前に聞いた声が聞こえた。





「あれ、水神さんやないか。どないしてん?」

「オサムちゃん!」
『渡邊先生!』





包帯さんと私の声が重なる。

包帯さんは、驚いたように私を見据える。
て言うか、え…オサムちゃん?
確か午前中に会った時渡邊先生、生徒にはオサムちゃんて呼ばせてるって…。
あれ、此処って…





『し、四天宝寺高校!?』





水神琉那、知らない内に一緒に合宿する高校に来てました。





「何や、知らんで来たんか?」





渡邊先生が驚いたように訊ねてくる。
知りません、全く。
ついでに言うと、表札見ないで入りました、すみません。
渡邊先生とは、午前中に会って合宿の確認をした。
本当は伯父さんが行く予定だったみたいだけど、急用が入ってしまったらしい。
だから、私が代わりに。
渡邊先生とは初対面で、最初こそ緊張した。
でも、思ったより気さくな先生で、すごく安心しました。
お昼もご馳走になってしまいましたし。





「オサムちゃん、知っとるん?」

「知っとるで?氷帝の榊監督の姪で、青学の臨時マネージャーとして、合宿に参加してくれる、水神琉那ちゃんや」

「榊監督の姪…!?」

「合宿に来るん!?」

『は、はい。えと…皆さんも参加なさるんですよね。宜しくお願いします!』





深々と頭を下げると、頭上からフと笑い声が聞こえる。
顔を上げると包帯さんがいて、綺麗に笑っていた。





「此方こそ、宜しくな」

『!…はい、包帯さん!!』

「包帯さん!?水神さん、俺包帯さんなん!?」





ショックを受けたような包帯さん。
後ろでは、他の人達がお腹を抱えて笑っていて。
え、そんなに可笑しいですか?





「そう言えば、自己紹介まだやったな。俺は部長の白石蔵ノ助」

『白石さんですね?えと、他の方は──』

「あ、ちょい待ち」

『?』





他の人達の名前も訊こうとしたら、渡邊先生に止められた。
何だろう?
疑問に思っていると、他の人はどんな風に思っていたのかと聞かれた。
白石さんを包帯さん呼ばわりしてたくらいだから、他のも面白いだろうと期待しているらしい。
すみません、私ネーミングセンス皆無なんです。





「じゃあまずは、コイツ」

『えと…ヘアバンドさん』

「なるほど?じゃあ次」

『ちっちゃくて可愛いこ…?』

「ワイちっちゃないで!」

『あ、ごめんね!』

「ふむふむ、次は…コイツ」

『……お坊さん』

「「「ぶはっ…」」」





坊主の人を指さしたから、お坊さんと答えた。
そしたら周りが一斉に吹き出す。
え、お坊さんはタブーとか?
だとしたらすみません。
おぼ…えと…、すみません。





「じ、じゃあ…コイツは?」

『…平和な人?』

「へ、平和な人…!」

「ぶはっ…、やっぱオモロいで水神さん…!」

『は、はぁ…』

「じゃあ最後や。コイツは?」





そう言った渡邊先生は、さっき光君にヘタレスターって言われていた人。
正直、この人はわからない。
と言うのも、何か呼び方を見つける前にヘタレスターと聞こえたため、そう思ってしまっていたから。
どうしよう?
やっぱ、言った方がいい?





『あの…、その人はわからなくて。代わりに、光君が言ってたヘタレスターと言うのを使わせていただいていました』





正直に伝えると、私を見据えたまま呆ける皆さん。
あれ、私何か変なことを…!
どうしよう、と一人焦っていると、ポンと肩に誰かの手が置かれる。
驚いて其方を向くと、親指を立てた光君。
え、何ですか?





「ナイスや、琉那」





え、ナイスなんですか!?
驚いていると、今度は吹いたような音。
其方を見れば、皆さん爆笑していました。
………ヘタレスターさんを除いて。





「何で…何で俺だけヘタレスターやねん…」

『あ、あの…』

「何や…!
(て、近…!何時の間に…ちゅーか、綺麗な顔立ち…)」

『ごめんなさい、失礼なことを…』

「だだだだ大丈夫やで!」

「謙也、どもりすぎや!」

「せやからヘタレ言われるんっスわ」

「な、何やと…!」





白石さんと光君のツッコミが入ると言い返すヘタレスターさん…?
それから私が帰るまで、光君と彼の言い争いは続いた。
名前は帰る直前に教えてもらいました。
ヘアバンドさんは、一氏ユウジさん。
ちっちゃくて可愛いこは、遠山金太郎君。
お坊さんは、石田銀さん。
平和な人は、小石川健二郎さん。
ヘタレスターさんは、忍足謙也さん。
忍足っていう名字にはひっかかったけど、ただの偶然だろうと気にはしなかった。
呼び方は、一氏さん、金ちゃん、石田さん、小石川さん、忍足さんと呼ばせていただくことに。
あ、渡邊先生もオサムちゃんと呼ぶことになりました。
因みに、一氏さんとは小春ちゃんのことで意気投合しましたよ!
他の人達も、色々話をしていたら仲良くなりました。
あ、光君とお互いに名前呼びしてるのは、四天宝寺高校に来るまでの道で、許可を得たからです。
光君、優しいですね。

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