23.仲直り

俺は、馬鹿かもしれない。
跡部さんの言うとおり、本当は最初から気づいてた。
あいつが、そこら辺の女と違うって。
さっきだって、俺のために泣いて説教。
そんなことができるような心の綺麗な奴、そういない。
……わかってた。
けど、引けなかった。
一度あんな態度をとってしまった手前、態度を変えられなかった。
意地を張っていたんだ。
くだらない、意地を。
怪我のことだって、別に悪化させるつもりなんてなかった。
前に怪我をした時も放っておいたらその内治ったし、今回も大丈夫だろうと高をくくっていた。
だから、軽い気持ちでああ言った。
ああ言えば、離れてくだろうと。
これ以上、俺が張るくだらない意地のせいで、あいつにあんな顔させたくなかったから。
だが…そのせいで、俺はあいつを更に傷つけてしまった。
そんな顔させたくないなら、俺が意地を張るのを止めればいいのに。





「…くそ…っ」





最低だ。
こんなんじゃ、跡部さんに下克上だなんて到底不可能な話だ。
俺なんかよりよっぽど、あいつのことをわかってる。

…?
……俺は、何でこんなことを…?





『結構です…!』

「!」





あいつの声?
結構って…何が…、





「いや、ホラ…遠慮しないで」

「俺達と遊ぼうぜ?」

『私、急いでるんです!』





溜め息を吐きたくなった。
まずナンパ紛いのことをされてるのは、仕方ない。
だが…、あっちは門とは真逆の方向。
どれだけ方向感がないんだ。





「急いでるったって、大した用はないんだろ?だったら──」

「おい」

「「『!』」」

「その手を離せ。そいつは、テニス部<ウチ>の客だ」

『ひ、日吉君…』





目を丸くして驚く水神。
黒真珠みたいな瞳に、俺が映った。
無理もないだろう。
さっき、自分が殴った相手…しかも自分を嫌ってる相手が、助けようっていうんだ。
何が起きたかわかってないのも無理はない。





「何だ、テニス部か…」

「チッ…仕方ねーな」





幸い、男子生徒はサッサと去っていった。
テニス部は恐れられてでもいるのか?
やっぱり跡部さんか?
…まあ、こういうときには役立つから良いか。





『あ…あの、すみません。…ありがとうございました!』

「待て」

『はぅっ!?』





脱兎の如く逃げようとする水神。
その襟首を掴んで、止めた。
変な声を出していたが、気にしない。
俺から逃げようとするからだ。





『ぅ…あ、あの…』

「悪かった」

『……………へ?』

「悪かった。…意地を張っていたんだ。別に、お前のこと…嫌いじゃない。それと…怪我も、ちゃんと病院に…行く」

『それ本当ですか!?』

「!?…いきなり振り返んな」


ゴンッ


『あたっ…!?』





ぐりんと、いきなり振り返ってきて、俺を見据える水神。
びっくりして驚いたから、とりあえず頭を軽く叩いといた。
酷いですとか言ってるが、お互い様だ。





『!…あ、その…頬…』

「?…あぁ、これは…」

『すみません!ごめんなさい私、手加減しないで殴っちゃって…!えと…あの、氷とってきます!』

「待て」

『へにゃっ!?』





俺の頬を見るなり慌てだした水神。
襟首を掴んで引き止めれば、また変な声を出した。
慌てすぎだ。





「落ち着きがないな。もう既に冷やした。腫れは引いてきてる」

『それで!?ああ…、本当すみません』





俯き謝る姿は、本当に落ち込んでいるようで。
罪悪感に苛まれる。
元はと言えば俺のせいだから、仕方ないが。
……て言うかこいつ、本当に人の心配しかしないな。





「……ありがとう」

『え?』

「お前のおかげで、ちゃんとテニス続けられそうだから。……ありがとな」

『…!…いいえ、日吉君が大好きなことを続けられるなら、良かったです』

「!…、」


ゴン


『いっ…!』





何するんですか!
涙目で訴えてくる水神。
俺は、目を逸らした。
反則なんだよ、お前。
いきなり、安心しきったようにへにゃりと笑って。
顔に熱が集中した。
涙目のお前なんか、見たらもっと顔が熱くなった。

くそ…!
とにかくその無防備さをどうにかしろ。
お前いつか、襲われるぞ。





「おっ、日吉、琉那ちゃーん!」





まあ、そういう奴らから護ってやらないこともない。
まずは、こっちに向かって来る忍足さん<ヘンタイ>から、護ってやるよ。

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