22.少女の過去

『はぁぁぁぁ…』





やらかした…やらかしちゃいました、私…!
日吉君殴って、泣きながら説教して、帰りますって言って帰って来ちゃった。
うわぁぁぁ…ごめんなさい!!
そして……、私は馬鹿です。





『此処…どこ…』





また、迷子になりました。





*****


驚いた。
まさか、殴るとは思わなかったぜ。
泣きながら説教してたしな。
ふと隣を見れば、長太郎は目を丸くして、呆然と立つ日吉を見ている。
いや、長太郎だけじゃねえか。
跡部も…忍足も、向日もジローも、滝も……俺も。
まず、俺達テニス部にあんなにハッキリものを言う奴も初めてだし。
俺達のためを想って涙を流す奴も初めてだ。
水神は…、俺達の周りの女達とは全く違うタイプだった。

暫くすると、漸く静まり返った空気が壊れた。
その空気を壊した…、最初に言葉を発したのは、跡部だった。





「…日吉、保健室に来い」

「…何でですか」

「手当てと、…話がある」





お前らも来い。
跡部が日吉の背中を押しながら、俺達に向かって叫ぶ。
話って何だ?
疑問点はあるがとりあえず、俺達は跡部について行った。





*****


「はい、コレでいいわ」

「…ありがとうございます」

「でも、ちゃんと病院に行きなさい。コレ…それ以上悪化したら、テニスできなくなるわよ?冗談抜きで」





40歳くらいの氷帝の保険医。
琉那と同じこと言ってるじゃねーか。
やっぱ、琉那の言うとおりだったんだな!!





「…その娘がいて良かったわね」

「「「!」」」

「君、隠してたみたいだから。…相当の洞察力がある娘みたいね」





じゃあ私、校長先生に呼ばれてるから行くわね。ごゆっくり。
フフフと笑って保健室を後にする先生。
全部お見通しかよ。
ホント、あの人何モンだ!?





「……話ってのは、琉那のことだ」





跡部が、ゆっくりと話し始めた。
琉那のこと…?
日吉をチラッと見ると、小さく反応していた。
まあ、あんな状況になりゃあ…なぁ。





「あいつは…、野球をやってた」

「野球?」

「じゃあ、何でテニス部の方に来たのー?」

「……あいつはもう、野球をすることはできない」

「「「!」」」





できない?
できないってどういうことだ?
やらないとか、やりたくないとかじゃないのか?





「あいつは小学生の時、入っていたクラブチームを優勝させるため、怪我して動かない体を無理矢理動かした。…その代償が、それだ」

「…!」





跡部の話を聞いて、目を丸くして驚く日吉。
勿論俺達も驚いた。
けど、あいつはそれ以上。
無理もないぜ。
て言うか、あいつが怪我のことで怒ったのは、そのせいかよ。
でも…それでも、赤の他人のために泣けるって、すごいよな…。
俺達の周りにいる女達とは違う。
いや…それどころか、そんな奴そうそういない。





「…」





くそくそ、青学が……羨ましいぜ。





*****


「人のために泣ける奴…、俺はあいつくらいしか知らねー」

「……」

「謝るなら、今だぜ」

「…俺は、別に…」

「薄々気づいてたんだろ、お前。この間来て、手伝ってくれた時も。その前、初めて会った時も。そこら辺にいる雌猫達とは違えってことに」





跡部さんの言葉に、黙り込む日吉。

え、初めて会った時て何?俺知らんねんけど!
…なんて聞こえるけど、この際無視したほうがいいと思う。





「気づいてたけど、今更引き返せなかった。……今ならまだ謝れる。謝ってこい」

「……」


ガラッ


「日吉…!」





何も言わず、保健室を出て行った日吉。
追いかけようとしたら、跡部さんに止められた。
大丈夫だ…って。





「…日吉……」





琉那さんは、凄く綺麗で凄く良い人だと思う。
俺は最初から…、初めて会った時からずっとそう思ってる。
初めて会ったのは、跡部さんが言ったとおりこの間じゃない。
その前に、俺達は会ってる。
忍足さんはいなかったから会ってないけど。
それぞれ場所は違うけど、俺と宍戸さんは音楽室だった。
部活まで時間があったから、ピアノを弾こうと音楽室へ行った俺。
でも、先客がいた。
音楽室に近づくにつれて耳に届く、優しくて綺麗な音色、優しくて綺麗なメロディー。
俺は誘われるように、音楽室へ入っていった。
音楽は、演奏する人の性格を表す。
まるで、演奏者の心を映す鏡のように。
だから、優しくて綺麗な音、メロディーを出せる琉那ちゃんは、凄く綺麗で優しい娘なんだと思った。
実際、その後会って会話した時にもそう思ったしね。
まあ、初めて見た時は見惚れちゃって惚けてたんだけど。
後から来た宍戸さんだって、その後会話して心を許した。
……日吉も、くだらない意地は捨てて、ちゃんと謝れれば良いんだけど。
ああでも、もう一度会っておきたかったな。
青学が、羨ましい。

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