20.東京の関西弁
翌日、土曜日。
私は伯父さんのいる氷帝学園に来ていた。
何故かと言うと、時は遡る。
・
・
・
・
・
「何ッ!?」
もう一度言ってみろ!
眼前でそう叫ぶは、私と雪兎の伯父。
何故叫んでいるのか。
それは、私が合宿に参加することを告げたから。
私が、テニス部の合宿に臨時マネージャーとして参加するって言ったら、一瞬で目の色が変わった。
どうやら、伯父さんのところも参加するらしい。
青学と氷帝以外は、立海と四天宝寺だったかな?
「琉那…男は狼なんだ…」
『狼って、狼人間じゃないんだから…』
「いいや、狼だ。油断していると、琉那みたいな、か弱い可愛い女は食われる…!!」
『……………。…でも、伯父さんも行くんでしょう?』
「?ああ…」
『だったら安心だよ。伯父さんが守ってくれるでしょ?』
「…!!勿論だ、琉那。私が守ろう…よし、許可する」
『ありがとう!』
「但し、無闇に近づくなよ?いいな」
『うん』
頷くと、よしよしと頭を撫でてくれる伯父さん。
伯父さんに頭撫でてもらうの、好きなんですよね。
「よし…仕方ない、明日氷帝へ来なさい」
氷帝へ…?
どうしてだろうかと首を傾げると、伯父さんは口元を緩めて笑った。
「明日、説明する」
・
・
・
・
・
と、言われて来たは良いのだけれど…、氷帝大きいなぁ。
青学も大きいけど…氷帝は更に。
何度来ても思う、流石お金持ち学校。
…取り敢えず、伯父さんを探さないと。
職員室に行けばいるかな?
氷帝学園の門をくぐり、私は校舎へと向かった。
*****
「全く…ジローの奴、何処行ったんかいな…」
辺りを見回し、金の癖毛を探す。
何で俺が探さなあかんねん。
それもこれも、榊監督が跡部を呼び出すからや。
何故か、部活に顔を出すなり、用があると言って跡部を連れて行ってしもた。
当然樺地もついて行くわけで…。
必然的に、既に何処かでサボっとるジローを誰かが探さなアカンようになってしもた。
ジャンケンとか、公平に決める手はいくらでもある。
なのにあいつら、揃いも揃って俺を指名しよった。
………何でやねん。
何で俺、こんな地位低いん?
パシリに、後輩にまで指名される俺って…。
「ハァ……ん?」
諦めたように溜め息を吐くと、視界に見慣れない黒が映った。
金色探してたら黒見つけるて…、どないやねん。
まあええけど…、あのコだれや?
女の子…で、氷帝<ウチ>の制服やない。
転校生…?
いや、そもそも氷帝<ウチ>に転校生なんて聞いたことあらへんしなぁ。
見たところ、辺りをキョロキョロ見回して困っとる…みたいやし?
話しかけてみるか?
ミーハーやったら、巻けばええし。
ポッと湧いた、軽い好奇心。
そんな好奇心が、俺の冷めた気持ちを変えるなんて、こん時は少しも思わへんかった。
*****
「──なぁ…そこの娘」
『ふぁい!…ぁ、』
恥ずかしい…!
顔から火が出そうなくらい恥ずかしい…!
結局、いつもの方向音痴が出まして、迷子になった私。
誰かいないかと辺りをキョロキョロ見回していたら、声をかけられた。
いきなりだったから、あんな変な声をだしてしまって…。
恥ずかしくて後ろ向けません…!
でも振り向かないと失礼なので、ゆっくりと振り向きました。
すると其処には、青髪に丸眼鏡をかけた美青年。
あれ、ちょっとデジャヴ?
「……、」
『あ、あの!すみません…私、此処で勤務している先生に用事がありまして。…職員室はどちらでしょう?』
「……、」
『…?…あのー』
「!…あ、あぁ堪忍な。…で、食品室?」
『食品室!?そんなのあるんですか、氷帝は!!是非見てみたいです!…じゃなくて、職員室です!!』
うぅ…恥ずかしい。
何、食品室って。
平仮名にしたら一文字違いだけども、気づこうよ私。
熱が集中してきた頬を隠すように俯くと、頭上からクスクスと笑い声。
馬鹿にされてるのでしょうか、私。
「いやあ、お嬢ちゃんおもろいなぁ。お笑いのセンスあるで?」
『……いりません』
ジトリとした視線を送ると、流石に悪いと思ったのか、職員室だろうと言う男子生徒。
何がしたかったんでしょう、この人。
頷くと、お詫びに連れて行ってくれると言ってくれた。
優しい人…なのかな?
『ありがとうございます』
「ええて。自分、名前何て言うん?学校は青学やな。二年あたりか?因みに俺は、忍足侑士。氷帝の三年や」
『はい、青学です。二年の、水神琉那と言います』
「琉那ちゃんか。ほんで、ここ勤務の教師やったか?何の用なん?」
ああ、言いたくなかったら言わんでええよ。
そう付け足してくれた忍足さん。
私のこと気遣ってくれたんだ。
やっぱり、優くて良い人なのかな。
クスリと笑うと、私はそっと口を開いた。
『実はその人、私の伯父なんです』
「え、伯父!?」
『はい。それで、学校が終わり次第来いと言われたので』
「…何や、大変やな。パシリよりはマシやけど」
相槌を打ってくれる忍足さん。
その表情は少し、疲れたようなもので。
……何か、お疲れ様です。
そんな感じで二人で話していると、あっと言う間に職員室。
忍足さんが扉をノックして、開けようとしてくれる。
そしてふと、その課程で彼は手を止めた。
ゆっくりと此方を振り返る忍足さん。
どうしたんでしょうか?
「すまん。…誰を呼べばええ?」
『…あ、』
すみません!
私、伯父さんの名前言ってませんでした。
慌てて頭を下げると、構わないと言って笑ってくださる忍足さん。
あ、やっぱこの人良い人だ。
「それで、誰なん?」
『あ、はい。私の伯父は──』
「──琉那、そんなところで何をしている」
「『!』」
突然背後から聞こえた声。
少し離れた場所からでも香る、香水の香り。
間違いない。
これは───
『──伯父さん…!』
[ 25/36 ]← →
back
しおりを挟む