16.最終日[1]
『えと…』
三日目、土曜日。
こんにちは、水神琉那です。
突然ですがどうしましょう。
テニス部に質問責めされております。
原因は少し前。
丁度、一年トリオ(皆が呼んでいた)が練習が始まる前、私にテニスをやらないかと切り出してくれたところから始まる。
*****
私は仕事もあるから遠慮したのだが、少しだけと言うので、まあ少しならと。
まあ、それが間違いだったわけで…。
堀尾君から借りたラケットを、私が握った時だった。
「危ない!!」
恐らく朝早くきて自主練をしていたのだろう。
しかも、声からするに桃だ。
声のする方を見れば、テニスボールが勢い良くこちらに向かってきていて…普通の女子なら、まさに危険な状態だった。
だが、あくまでも普通の女子ならの話だ。
普通じゃない私は、そう……反射的に堀尾君のラケットで、ボールを打ち返してしまったのだ。
しかも、運が良いのか悪いのか、ボールが落ちたのは桃の真横。
ボールはそのまま桃を通過し、後ろのフェンスに勢い良くぶつかった後、コロコロと転がった。
『あはは…やっちゃった』
呆然と私を見詰める桃。
堀尾君、カツオ君、カチロー君も。
桃と練習してた人(どうやらリョーマ君)も、唖然としていた。
*****
それからは、桃に「すげーなーすげーよ!!」と滅茶苦茶言われ、リョーマ君は先輩テニスやろうと目を輝かせ(小犬みたいで可愛い)、一年トリオには尊敬の眼差しを向けられた。
しかもそれだけに収まらず、不二先輩やら菊丸先輩やらに伝わってしまう。
挙げ句の果てには手塚先輩にまで。
そうして、今現在に至るわけです。
「先輩、テニス経験者なの?」
『ち、違うよ。テニスはやったことない』
「やったことないのに、桃のあれを打ち返したのかい?!」
大石先輩を筆頭に、酷く驚いたような表情になる。
治兄と隆兄は、理由はわかってるみたいだけど、打ち返せたこと事態には驚いていた。
私は苦笑を零すと、もう言ってしまおうかと、口を開いた。
『私、野球やってたんです』
「野球を…?」
疑問を浮かべる彼らに、コクリと頷く。
雪兎も野球部でしょうと言えば、彼らは確かにと頷いてくれた。
『前にいた学校では、野球部のマネージャーをやってました。父親がプロ野球選手だったので、その影響で私も雪兎も野球好きに』
今は、雪兎の練習相手したりするくらいですけどね。
苦笑を漏らせば、彼らは納得したように頷いた。
それで反射が良かったのか、と。
まあ、プロ野球選手っていう単語には目を丸くして驚いてたけどね。
「でもすごいね。桃の打球を打ち返すほどの力があったってことでしょ?」
『んーと、それはどうでしょう?自分でもよくわかんないです』
誤魔化せた、かな?
本当は、ちょっとしたコツがあったりするんだけど、言ったらキリないし。
その後、手塚先輩の開始の合図で、練習は始まった。
何だかんだ言ってたけど、テストも今日で終わりだ。
そう思うと、解放感と供に何故か寂しさも感じた。
けれど私は、それに気づかないフリをして、心の中にしまい込む。
『今日も頑張ろう…!』
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