13.一日目
テスト一日目、木曜日。
私は唖然とした。
「キャー、菊丸くーん!!」
「不二くーん、頑張ってー!!」
自己紹介の時、綺麗な人達だなぁと思った。
けれど、テニス部の皆が部活を始めた途端、今の状態に。
ミーハーって、すごいんだなぁ。
マネージャーの仕事を教えてくれてる治兄にそれを伝えると、眼鏡をしていてもわかるくらい苦笑していた。
お疲れ様です。
話は変わるけれど、マネージャー業は思っていたよりも大変だった。
選手の方が余程大変だろうけれど、マネージャー業も結構疲れる。
私は、治兄に昨日お願いして見せてもらったデータを写した、自分専用のノートを出した。
『ハァ…頑張ろう』
部員達が休憩に入る前に、終わらせなければならないこのボトルの量。
しかも、全部全く同じで、どれが誰の分だったかわからなくなってしまう。
私はもう一度溜め息を吐くと、ノートとビニールテープ、マジックを手に取り、作業を始めた。
*****
「ふぅ…疲れたにゃぁ…」
「フフ…お疲れ様、英二」
最近の練習はハードだ。
そのためか、元々体力の少ない菊丸は辛そうだった。
その上、マネージャーテストを受ける内二人は、キャーキャーとまとわりついてくる。
こんなのが後二日は続くのか。
そう思ったレギュラー達は、深く溜め息を吐いた。
『──あ、皆さんお疲れ様です。休憩に入ったんですね』
ドリンク、ここに置いておきましたから。
そう言って微笑む彼女……琉那は、彼らにとって唯一の救いだろう。
ありがとう。
礼を言ってボトルを手に取る彼ら。
「──あれ?これ、"大石秀一郎"って…」
「ぇ、俺かい?…あ、こっちは"手塚国光"…手塚の?」
「はは、どうやら一人一人専用ボトルを作ってくれたみたいだね」
琉那らしいや。
河村は嬉しそうに微笑む。
それは、他の部員も同じだった。
テニス部はかなりの人数がいる。
それにも関わらず、一人一人専用ボトルを……しかも全員分。
今まで使われることの少なかったボトルが、生まれ変わって帰ってきたような。
そんな、不思議な気持ちでいっぱいになった。
だが、まだ驚きは続く。
「…!
(これは俺が好きな味…何故)」
そう思った手塚が周りを見渡す。
周りも同じような反応だ。
だが、手塚の目的の人物は彼らではない。
辺りを目を凝らして探していると、彼の隣からフッという笑い声。
手塚が其方を見ると、青学のデータマンこと乾貞治が、ノートに何かを書き込んでいた。
「フッ…やはりあいつは変わらないな。昔から…」
「…乾」
「手塚?」
手塚にいきなり声をかけられた乾は驚く。
だが、すぐに手塚が言いたいことがわかったのだろう。
彼は笑って言った。
「実は昨日、ノートを見せて欲しいと頼まれてな」
恐らく、それを使って作ってくれたんだろうな。
そう言って柔らかい笑みを浮かべる乾に、手塚は驚く。
まず、乾が琉那にノートを見せたこと。
乾が他人にノートを見せることは滅多にないのだらから、当たり前だろう。
そして次に、仕事の手際の良さ。
昨日突然頼まれたのにも関わらず、ここまで出来ているのだから、驚きだ。
そして最後、何故ここまで真剣にやってくれるのか。
自分達との彼女の関係なんて、すれ違ったら挨拶を交わす程度だった筈。
それなのに何故……
手塚は…否、他の部員達も同じだろう。
昔から彼女を知る河村と乾、同じクラスの桃城以外は、不思議で仕方なかった。
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