09.手当て

『もう…だから無茶しないでって言ったのに…』

「ごめん」

『もう…』

「はは、そんなに責めないでやってくれ、琉那ちゃん。雪兎だって、頑張ってやった結果だからさ」

『神沢先輩…いつもすみません』

「はは、気にしないで」





いつも通り雪兎を見送り、部活まで時間があると言った未香と、お喋りをしていた私。
暫くして部活の時間となった未香と分かれ、自分も帰ろうとしていた時だった。
雪兎の所属する野球部の部長である、神沢理人先輩が慌てて走ってきたのだ。
先輩は私を見つけるなり、雪兎が怪我をしたから手当してほしいと告げた。
雪兎が心配だった私は慌てて保健室に。

何故私に頼んだのかは、明確。
保健の先生は出張で留守だし、野球部にはマネがいないから。
困った先輩は、私を頼ってきたという訳だ。
因みに神沢先輩とは、雪兎の部活見学などについて行く内に、仲良くなった。





『これで良し。伯父さん呼ぶから、暫くは安静ね』

「うん…」

『…傍で見学してるくらいなら良いよ。怪我したのは手だし、球が来ても雪兎なら避けられるだろうから』





あからさまに落ち込む雪兎に負けてしまい許可すると、雪兎は心底嬉しそうに目を輝かした。





「ありがとう、琉那」

「クスッ…何だかんだ言って、琉那ちゃんも雪兎には甘いね」

『そうですね…。でも、今回許可出来たのは、神沢先輩なら雪兎を任せられると思ったからですよ』





そう言ってふわりと笑えば、神沢先輩は一瞬目を丸くして驚いた後、顔を赤らめて小さくありがとうと言った。

どうしたんだろう?

疑問に思いつつ雪兎を見れば、ジト目で此方を見ていた。





「…無防備に笑うの禁止って言ったのに…」

『え、あ、ごめんごめん』

「はは、雪兎も過保護だよね」

「…琉那の笑顔にみほっむぐむぐ」

『みほ…?』





何かを言いかけた雪兎の口を手で抑え、口止めする神沢先輩。
どうしたのかと訊けば、何でもないと返されてしまった。





「じゃあ、俺達はもう行くね」

『あ、はい。雪兎をお願いします』

「うん。それじゃあ」





言うなり、雪兎を連れて光の早さ(言い過ぎか)で去っていった先輩。

みほ…って、何なんだろ?
あ、伯父さんに連絡しなきゃ。
忙しいかもしれないから、メールの方が良いよね。

ポケットから携帯を取り出し、伯父さんにメールを打つ。
簡単に説明した文を送信し、完了の画面を見届けてから、それを閉じた。

どれくらいで返ってくるかなぁ?
時間かかるかな?

けれどそんな私の不安は杞憂に終わった。
メールを送信してから二分も経たない内に、手元の携帯が震えた。
まさかと思いサブディスプレイを見る。

"伯父さん"

え、嘘でしょ。
いくら何でも早すぎる…。

信じられないスピードに唖然としながらも、携帯を開いてメールの内容を見た。





From.伯父さん
sb.Re.
-------------------
雪兎が怪我だと!?
すぐに向かう。
着いたら電話を入れるから、安静にして待っていろと伝えてくれ!!

-------------------





『うわぁ…』





どうしようコレ、申し訳なくなってきちゃったなあ。
でも、雪兎も心配なんだよね。
結構腫れてたから…。
酷くないと良いんだけど…。



コンコンコン


『?』

「失礼しまーす………んにゃ?」





突然保健室のドアが開き、驚いて其方を見ると、顔に絆創膏(?)を貼っている男の人がいた。

あれ、あのジャージどっかで見たような…。





「君は?」

『あ、私は水神琉那です。二週間前に転入してきました。
えと……あなたは?』

「え、知らないの?」





どうしよう、またデジャヴ。
不二先輩と同じ質問ですよコレ。
青学には有名人だらけなの?





『すみません、知らないです』





取り敢えずそう答えれば、その人は目を丸くして驚いた後、嬉しそうに笑った。





「そっか!!俺は三年の菊丸英二だよん。テニス部レギュラーなんだ。宜しくね!!」

『菊丸先輩?宜しくお願いします』





そう言えば、先輩はどうしてここに?
付け足すように言えば、菊丸先輩はそうだったにゃ!!
と慌て出す。

にゃ…って、何だろう。
可愛いけど。





「手首捻っちゃったんだよねー。手当してもらいに来たんだけど…」

『保健の先生なら、今日は出張でいませんよ?』

「あ、そう言えば!!忘れてたにゃ…」





あからさまに落ち込む菊丸先輩。
彼の腕を見れば、確かに腫れていた。





『私で良ければ、手当しますよ?』

「え、いいの?」

『はい。私、こう見えて手当は得意なんですよ』





笑いながら言えば、じゃあお願いするにゃと言って、椅子に座った菊丸先輩。

怪我してる手とは反対の手で顔を覆ってたけど、どうかしたのかな。

そんな小さな疑問を抱きつつ、菊丸先輩の手首を診た。
先程の雪兎程ではないが、結構腫れている。
菊丸先輩が無言になってしまって訪れた沈黙に気まずさを感じ、私は手当てする手を早めた。

疾きこと風の如くって言うしね。





『──はい、出来ましたよ』

「わぁ、ありがとう水神さん!!」

『いえいえ』





良かった。
黙っちゃったから、ちょっと話しかけづらかったけど、普通に話せた。





『!…あ…、電話』





すみません、ちょっと失礼します。
菊丸先輩にそう告げ、電話に出る。





『もしもし』

「《琉那か?》」





着いたから出て来てくれと言う伯父さんに場所を訊けば、野球部側の門だと言われた。
私はそれにわかったと告げ、電話を切る。





『菊丸先輩、私用事があるのでこれで失礼しますね』

「うんにゃ、気をつけてね!!」

『はい』

「水神さん、ありがとにゃ!!」

『クスッ…もう無茶しないでくださいね?では』





菊丸先輩にそう告げて、荷物を持ち保健室を出ると、私は野球部の方へ向かって駆けた。

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