眩しい。
人工色で痛みきった金髪が見事に頂上の太陽と反射して、色素の薄い俺の網膜を容赦無く焼き付ける。
手入れなど施されていないギチギチに絡まった毛先が先程からフレームインしてくる。
あぁ、うざったい。何なんだ一体、とその憎たらしい毛先を睨みつけてやれば、隙間から覗く物騒な光が爛々と射抜いてきた。
相変わらず獣じみてるな、と特に変わった感想を抱くでもなく鬱陶しげに双鉾を細める。
「今日の君は一段とおかしいね」
「黙れ」
一言でいなされた俺は怪訝に眉を顰め、至近距離で睥睨する化け物改め猛獣に言葉通り噛み付いた。
しかし、やはり、さすが猛獣。噛み千切る勢いで歯を立てたというのに、形がつくどころか俺の歯の方が折れるかと思った。
「うっわ、痛ってぇ…絶対お前人間じゃないだろ」
「え、臨也何してんの」
目を丸くしながら猛獣と顎を摩る俺を交互にまるで気持ち悪いものでも見たような反応をする新羅に教科書の角でぶつ。
ドタチンから借りた物だが後で謝ればいいだろう。
以外と効果はあったのか後頭部を手で押さえながら呻く新羅を無視し、次の授業の為にカバンに入れっぱなしにしていた英語のノートを取り出して机の端に揃える。神経質じゃない几帳面と言ってくれ。
ミーン、ジジジ。ミーン、ジジジ。
背中を伝う汗の冷たさに顔を歪める。極力動かないように心がけていたというのに水の泡だ。最悪。
ふと、普段なら怒り狂って所構わず机を投げ飛ばしているであろう天敵の存在を思い出し、視線だけで振り向いた。その名前の如く静かだなんて珍しい。特に俺関係で。
「シズちゃん?」
俯いていて表情の見えない静雄の姿に訝しむ。怒りを堪えているという風でもないし。
左右に揺れる金髪の動きだけを目で追う。
ユラリユラリユラリ。あ、風が。
「え、」
風によって吹かれた金髪の間から僅かに見えた耳が真っ赤に染まっていた。見間違いかとも思ったが隣の新羅も俺と同じような顔をしている。
…は?何で?
「シズちゃん…?」
どうしたの、と手を伸ばすと骨張ったゴツゴツした指が触れてきた。いつもと様子の違う天敵にナイフを使うことも躊躇われ、只々挙動不審に視線をさ迷わせたまま動けない。
傍から見れば異様な光景だろうな、と心の何処かで冷静な自分が自嘲気味に笑った。ついでに目の前の金髪も緩んだ頬はそのままに笑った。
…頭が着いて行けない。
「臨也」
いつの間にか教室には俺と静雄と新羅しかいなかった。俺と静雄が相対していたからこれから喧嘩が起きるとでも思ったのだろう。相変わらず順応性の高くなったクラスメートには不憫でならない。原因の大半は俺だけど。改める気はないけど。
「何、」
無表情で不機嫌さを全開に押し出す俺の態度に面食らったのか、静雄は弛緩した顔を引き締めた。警戒するも何をするでもなく俺を見詰める静雄にいい加減苛々が最高潮に達した。ギロリと冷たい視線を送れば、みるみる内に悲しそうな表情を見せる天敵に訳が分からず隣の新羅に助け舟を求める。が、既に遠巻きに傍観体制に入っていた。
あの裏切り者…いつか絶対抹殺してやる…。
「シズちゃん、俺何かした?いや、まぁ噛み付いたけどさ。うん、でもシズちゃんの反応が解せないな」
「臨也」
だから何、と口を開こうとした瞬間静雄によって腕を強く引っ張られた。もっとも静雄にとってはそれほど強くしたつもりはないだろうが。
は?何?と自体をよく分かっていない俺はすっぽりと静雄の腕の中に納められた。一気に熱が顔に集中していく。
「シズちゃん!?何すんの!」
ぐい、と顔につけられた静雄の肩を押し返すと案外あっさりと離された。何がしたかったんだ。更に文句を言おうと顔を上げるとあまりの至近距離に息を呑んだ。徐々に近付いてくる静雄に反射的に目を瞑る。
心臓が身体を突き破って肺を押し潰し、脳にまで侵食される。ドカドカと騒がしいノックで耳鳴りが酷い。緩く頭を振れば状況を理解しようと俺の賢い前頭葉が悲鳴を上げた。
いつまでも衝撃の来ない俺は、ゆっくりと目を開き突っ立ったままの男を見上げる。訝しげに眉を寄せる静雄に俺の頭はまた混乱した。もしかして冗談、だったのか。
「お前なぁ…」
呆れたようにため息を吐く静雄に俺はただパチパチと瞬きを繰り返す。いつになってもこの男の考えていることは分からない。
もう一度腕を引っ張られたかと思うとそのまま耳に口を寄せられ囁かれた台詞に今度こそ卒倒しそうになった。

「手前が好きだ」








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