have doubts about

「ううっ…」

まだ眠っていたいと瞼が抵抗してくるのを我慢して今日も朝早くにファイちゃんを装備して部屋を出た。今日はいつもよりかなり早く、4時に部屋を出た。今日の作戦は、今までで一番リスクが高いかもしれないからだ。
階段を降りると息を殺して寮長が居ないか確認し、ゆっくり男子寮への扉のドアノブを掴んだ。男子寮内に潜入すると、ミコトはガッツポーズを取った。そして、足音を立てないようカイトの部屋を目指した。

カイトの部屋のドアの前に辿り着くと、ミコトはポケットの中を漁った。ピックやらドライバーやらを取り出した。1960年代をモデルとしているんだ、セキュリティは容易い方だ。自信に満ちた笑みで鍵の解除に取りかかった。
あろうことか、階段を颯爽と降りてくる足音がし、ミコトは慌てて戸棚の影に隠れた。なんという邪魔者だ。まさかこの時間に人がいるとは、朝までメンテナンスをしていたメカニックだろうか。
静かな男子寮内ではCCMの音が鮮明に聞こえた。

「…キュウキ隊長、こんな時間に電話とかやめて下さいっスよね」

その声は、第一小隊の西米良サガラだった。しかしいつもより少し声が低い気がするし、挙げた名前は全く知らない人物だ。

「そりゃ誰もいないっスけど…あぁ、デスワルズブラザーズのことっスか?新人のアラタくん達がロストさせたっスよ、不可抗力だったらしいっスけど。まあこっちには好都合っスけどね。」

先日のウォータイムでの出来事を話しているのは分かったが、話している人物は誰なのだろうか。敵仮想国に情報を売っているのだろうか。だが彼はそんなことをするようには見えない。

「そりゃ俺がロストさせたかったっスよ。けどまあ、他は俺が仕留めてみせるっスよ。ジェノックはアラタくんとヒカルくんの加入によってかなり強くなってるんで難しい話っスけどね。そっちはどうっスか?」

内容が飲み込めなかった。彼は自分でデスワルズブラザーズをロストさせたかった?ジェノックが強くなると自分が仕留めることは難しくなる?
混乱しそうだったが何か証拠になることを聞こうと耳を尖らせた。

「…それが当たり前じゃないっスか。知られてるのはロシウスの一部くらいっスよ。じゃあ一ヶ月後にエルダーシティでってことでいいんスね?トモヒロくんによろしく伝えといて下さいっス。それじゃあ。」

電話は切れたようだった。一ヶ月後にエルダーシティで何か起こるのか…?今の中ではこれが一番の重要な情報だった。
彼は一体誰に何を何の為に今の電話をしたのか。彼は悪なのか正義なのか。先程の内容ではよくわからなかった。
が、聞いてはいけないことだったのが彼の口調や彼のいつもと違う一人称がそれを指していた。

ガタッ

「!!!!」

ファイちゃんが戸棚に当たり、音が鳴ってしまった。反射的に縮こまったが、足音が近づいてくるのがわかった。どうしよう、わざとではないが盗み聞きしていたことがバレてしまう。今は自分は戸棚に隠れて見えないはずだ、落ち着け。足音が近くなってきたのがわかった。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。
心臓の音が彼に聞こえてるんじゃないかというくらい大きく鳴り始めた。
何をしていいか分からず、目を強く閉じたその時だった。

「サガラ!!!部品がどっかいっちゃった!!一緒に探して!!!」

第一小隊メカニック、細野サクヤの声だ。足音は小さくなっていった、彼が離れていったのがわかった。

「またっスかサクヤくん!しょうがないっスね〜!!」
「…本棚の裏にあった本、サガラどうしたのかな」
「ちょっ!!!!サクヤくん!!!それもういいっスから!!!!」
「ハルキやアラタに言ってもいいんだよ?アラタでも持ってないと思うよ…」
「うわぁぁあああああああああ!!!!サクヤくんもうやめて下さいっス!!!!」

階段を登る音が聞こえ、声もだんだん遠くなっていった。
…………助かった。安堵のため息をつくと冷や汗をかいていたことに気付いた。緊張で二人が話していた内容はちゃんと聞いていなかったが、彼が情報を売るようになんてやはり見えない。
自分も皆に笑顔を振りまいてるが内心は汚いので言えたことじゃないかもしれないが。
作戦なんてどうでもよくなり、ミコトは男子寮を出た。



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(疑いを抱く)


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ミコちゃん全然喋ってない


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