クールでドライな彼
「くっにみー!!!」
抱井は抱井いづみといいます。目の前を歩く長身の彼は国見英。同じ学年で男子バレー部に所属している。うちの学校は男子バレー部凄く強い。
彼はいつものように抱井の声に反応することなく歩いていた。そんなクールでドライなところも素敵で堪らない。駆け足で彼の隣に向かった。それでも彼は此方を見向きもせず、ただただ前を見ていた。
前から彼のクラスの担任がノートをたくさん抱え込んで歩いてきた。彼を見つけると途端笑顔になっていた。
「国見、今日日直だったよな?これ俺の机に置いといてくれないか」
「え」
押し付けるようにノートを彼に渡すと、先生は身が軽くなった事で早々と歩いていった。じゃないじゃない、頼れる自分を見せてやろうと両手を出した。
「国見!抱井が運ぶよ!貸して貸して!」
そう言うと彼は遠慮なくノートを渡してきた、結構重い。だからこそかっこいいとこを見せてやろう。勝ち誇ったような笑顔を見せて職員室に向かう。やはり重くて一度何処かで休憩しようとノートを置くところを探そうとした。
「あ、国見のくっつき虫。」
「くっ、くっつき虫!?」
前から突如現れた長身の男子はいきなりそんな言葉を吐いた。国見と同じバレー部の一年生、金田一勇太郎だと判断するには随分と見上げなくてはならなかった。
「バレー部の皆そう呼んでるぜ」
「そっ、そんなの聞いてないよ!!虫とか…!うわわ」
バランスを崩してノートを落としそうになったが、金田一が支えてくれた。感謝しようとしたが頭を乱暴に撫でてきた。両手が塞がっているので抵抗出来ず、されるがままだ。
「髪くしゃくしゃになるよ!やめてー!」
「ははっ、頑張れよー」
金田一から逃げるように職員室に向かった。誰も手伝ってくれなくて不機嫌になった。絶対頭がおかしい状態になっている。このまま職員室に入るのは恥ずかしい。自分にだって羞恥はあるがこの状況は仕方がなかった。
職員室に入ろうとしたが今気付いた。両手が塞がってドアが開けれないということを。足で開けようにも職員室のドアは開けると自動的に閉まるように重りがついていて、簡単に開けれなかった。
「ヘ、ヘルプミー!!フーヘルプミー!!い、岩泉委員長!!ヘルプミー!!」
「いろいろツッコミどころがあるんだが英語間違ってるってことは言わせてくれ」
自分の所属する風紀委員の委員長の岩泉一が通りかかったことで助けを求めた。彼はバレー部の副主将でもある。自分が何に助けを求めているのが見ただけで理解し、彼はドアを開けた。
「失礼します!」
暖房の効いた職員室に入ると国見の担任の机を探した。重いノートの山をやっとのことで手放した。近くにいた教師にご苦労様と告げられ少し機嫌が良くなった。
「失礼しました!」
職員室を出ると空気は一瞬にして冷たくなった。待っていてくれていた岩泉が急に自分の顔に手を伸ばして来た為、危機感を感じて構えを取った。
「別に何もしねぇよ。髪ぐしゃぐしゃだぞ。」
「金田一にされたんです!手が塞がっていたので抱井はされるがままに!」
「言い方やめろ」
彼はそのまま自分の髪を整えてくれた。ドキドキと胸が高鳴ることは無かったが、何かを感じた。身近な存在を。
「お母さん…!」
「お前もう一回ぐしゃぐしゃにしてやろうか」
「何でですか!褒めてるじゃないですか!!」
「お前はお父さんみたいって言われて嬉しいか」
「いやあ…言われたことないんでわからないですね」
「だろうな」
丁度予鈴が鳴り、二人は教室へ急ごうとした。
「ありがとうございました!それじゃあ!そうだ、明日って会議あります?」
「あるに決まってんだろ、人の話聞いとけ」
「えへへ、ありがとうございましたー!」
岩ちゃんは風紀委員長とかだったらいいのにっていう勝手な妄想
2013.11.16
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