基宇
 春の暖かな陽射しが中庭に降り注ぐ中、ぱたぱたと小さな足音が響く。
 皖は翼を迎え、世間話に花を咲かせていた。
 その場に茶を運ぶ志暉と共に、小さな足音の主も姿を表す。

「やぁ、阿基。相変わらず志暉にくっついてまわっているのか」

 茶を受け取りつつ、翼は志暉の足元に視線を向け、もう片方の腕を伸ばす。すると声をかけられた小さな影は、さっと志暉の後ろに隠れた。

「人見知りな子ではないんだがな。お前が相手では駄目なようだ」

 ふーっと溜息なのか茶を冷ますために吐いた息なのか判別の付かない一息を吐き、翼は腕を引っ込めた。
 すると再び小さな影が顔を覗かせる。
 その瞳はキラキラと輝き、興味津々なのが伺えた。

「……逆かな。お前の事が気になるようだな……こんな変人見た事ないから」

「お前毎回一言余計だと思うがな」

「ははうえ、もう行きましょう」

 裾を引っ張る小さな影をひょいと抱き上げ、志暉は困り顔。

「こんな小さいうちから天邪鬼さんなのか。困ったもんだな」

 翼はニヤッと片頬を歪めて見せた。
 今度は皖が溜息。

「悪影響が出なければ良いが」

 


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