その刹那、鼠のように小さかった体が、中型犬の大きさにまでいきなり成長して見せた。
 見てくれも犬と同じだが、目が無い。
 第一陣の攻撃を馬を退いて躱し、反転して再び飛び掛かる体制を見せる幻影に刃を向ける。

「この程度で、私達の首は取れませんよ」

 溜息混じりに安葹が呟く。
 馬上ではあるが、この男もなかなかの腕前であろう事が構えから解る。
 三人はそれぞれ、襲い来る幻影を軽々と切り伏せ、男の気配を追った。


「幻影……そう、幻影だな。そこだ!」

 言うが早いか、鮑舒は忍ばせていた手刀をあらぬ方向へと投げる。
 「ひっ!」と引き攣った声がした後、ばたりと小柄な男が三人の目の前に倒れた。
 歳の頃は四十かそこらで、確かに高そうな刈安色の胡服に身を包んでいる。
 その頬には、赤い一筋の線が刻まれていた。

「どうも。はじめまして。やっとその顔を見せて頂けましたね」

 鮑舒は馬上から、転がる男に切っ先を向ける。男は口を大きく開けまま、その刃の先を見上げていた。

「見た所、国の人……ですかな。我々に何の御用ですか」

 男は一つ息を飲んだ後、眉根を寄せた。

「その方ら、昂醒一味の者であろう。我らが瓏国に対する反逆の大罪で……」

 現状が良く理解出来ていないらしいく、剣を向けられてさえ、その強気な態度を崩さない。
 三人はそれぞれ顔を見合わせ、溜息を吐いた。

「誰の差し金か、話して頂きましょう。貴方だって、耳や鼻を削がれるような事は望んでいらっしゃらないと思いますが」

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