朝、門が開くと同時に匯を出た三人は、一路南西へと馬の鼻先を向けた。

 少し行くと、やや左後方からやっと地と空を地平で分かつ、光の線のように曦軒が昇り始めた。
 旭の輝きは、夜闇の墨に垂らした水のように黒い空に白く広まっていき、黒から紺へ、そして紺から青へ。次第に辺りを照らし出す。
 暗闇が晴れ、遠くまで見渡せるようになると、視線の先には地平の彼方まで青々と茂る草原が広がっていた。

「……いつもならば、後ろなど振り返っている暇などないのだがね」

 鮑舒はぽつりと呟くと、馬の手綱を締めた。
 それに習った訳では無いが、桓虔と安葹も同じように手綱を引き、馬の歩みを停める。

「桓虔殿、この馬は如何様に入手されたのですか?」

 追っ手の気配がある。
 もしや、馬の持ち主ではあるまいか。

「俺の故郷を探してる人間がいて、情報をくれてやった。情報料代わりだ。掻っ払って来た訳じゃない」

 少々声を低めて桓虔は言う。
 誰も知らない村に興味を持つ酔狂な人間は、珍しいとも言えない。
 金持ちの道楽として、各地の伝説などを追い掛ける人間がいると聞いた事がある。
 鮑舒は桓虔の言を特別疑う事はしなかった。

「人……ではなさそうですね。太陽を背負って来る辺り、人並みの知識はありそうですが」

 言いながら安葹は装飾の無い片刃の剣を抜く。
 馬上で戦える相手ならば良いが、と鮑舒も紅い剣を抜刀して追っ手の姿を待った。

[*←] | [→#]
16/20
Top









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -