まだ暗く、冷たい空気の中。
 宿屋の前で、鮑舒は安葹と共に桓虔を待っていた。
 宿屋には前日料金を支払っておいたし、次の街烙斐(ラクイ)までの食糧も買い込んだ。
 その為、少々鮑舒の懐具合は寂しい。

「桓虔殿……あの方に三度会う事になるとは思いもしませんでした」

 安葹がぽつりと呟いた。
 同じ部隊にいたのなら、何度も顔を合わせていても可笑しくは無いだろうに。
 黒い空を眺める安葹を横目に、鮑舒は道の彼方に耳を澄ませた。人気のあまり無い早朝は、音が嫌でも響き渡る。
 蹄の音が、北から聞こえて来るようだ。
 
 
 一刻程で黒い馬を連れた桓虔の姿が闇の中から現れ、二人の目の前に止まった。

「もうすぐ門が開く。開いたらすぐにたちましょう」

 桓虔が連れて来た馬は、西の国、驥(キ)産の物だと一目で解る。
 譲(ジョウ)と言うのが正式な名だが、良質の馬の産地である事から『一日千里を駆ける馬』の意味である驥と呼ばれるようになった。
 その名の通り驥産の馬は千里を駆け、個体数の少なさも合間って、高額で取引されている。
 桓虔が追われている様子は無いが、早々にこの街を離れた方が良いのは確かなようだ。
 鮑舒と安葹も馬に跨がり、南の外門へと馬を歩かせた。

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