安葹と別れ宿に戻ると、調度桓虔が戻って来た所だった。

「何か、めぼしい情報は手に入りましたか?」

 宿に入る所に声をかけると、桓虔は振り返り際うっすら笑みを浮かべた。

「会いたい人が出来ました。俺は洽へ行きます」

 何処かで昂醒か、史煉の事を聞き付けたのだろう。本気で黒乕と対峙するつもりなのか。
 とにかく部屋に戻ろうと促し、二人は宿の中へと入った。

「何故、洽へ?」

 聞くまでも無い事かも知れないが、一応探りを入れておく。

「街中で聞いたと思うが、洽の州境が近々閉鎖される。黒乕が配備されるなんて話も耳にした……鮑舒殿も行くんでしょう」

 鮑舒は肩を竦めて頷いた。
 先程の士卒の話には黒乕の事など一言も触れていなかったが、桓虔が聞いた所ではそんな事も話していたのか。
 だが、『会いたい人がいる』と桓虔は言った。黒乕の事ではあるまい。

「黒乕を追っている私が行かない訳にはいきません。ですが、桓虔殿は何故……どのような方に会いに行かれるのですか?」

 桓虔は故郷に帰るのだろう、と鮑舒考えていたが、帰って来た答えはまた違う物だった。

「孟鐫、と言う男に用がある」

 聞いた名だ。
 確か、安葹が昂醒と言う男をそう呼んでいた……。
 しかし何故、桓虔がその男の事を知っているのか不思議だった。
 黒乕と対峙する為だけに会いたいと言っているのだろうか、それとも何か別の理由があるのだろうか。

「手配書が出回っている昂醒なる男の事ですな。ですが何故、洽にいると思われるのです?」

「あの男が堰で負けて、死ななかったのはは、黒龍の加護と黒凰(コクオウ)仙人が付いてた所為だ。洽の史煉と堰の謄蛍殿はとても仲がよかった……志を受け継いだ孟鐫はきっと、洽で再起を果たすに違いない」

 何故こうも断言出来るのだろうかと、鮑舒は苦笑する。龍の存在や、仙人の存在など、鮑舒は昔から否定的な人間だ。
 だが今は反論をせず、静かに話を聞いていた。

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