「有り難う御座いました」

 安葹は鮑舒が腰を下ろすと、すぐさま礼を言った。
 やはり尋ね人、か。

「なに、『同明相照らし、同類相求む』と申しましょう。私も同じような物ですからね……」

 鮑舒は溜息を吐きながら、自分の盃に水を注ぎ込んだ。
 追われている訳ではないが、国に組する黒乕と対峙している以上、いつ同じ立場になるか解らない。
 そうなる前に……。

「安葹殿は、昂醒と言うお方に支えてらっしゃるのですね。もし、よろしければ……そのお方に会わせて頂けないでしょうか」

「孟鐫に……ですか? いや、私も今、彼の所在が解らないのです。しかし、手配書が出回っていると言う事は、まだ生きていると言う事。それが確認出来ただけでも幸いだった」

 言って安葹は安堵の表情を浮かべた。
 この国で黒乕と対峙している部隊は、この昂醒なる男くらいだろう。出来れば会って話してみたかった。
 もし見込みがあるのなら、付いて行くのも悪くないだろうと思ったのだが……。

「残念です……ですが、生きているのですから、いつか会えますね」

 にっこりと微笑む鮑舒に、安葹は不思議そうな顔をしていた。
 洽の州境が閉鎖されるのなら、昂醒がいる可能性がある為だろう。
 出来るのなら閉鎖される前に洽に入り、史煉に話を聞いてみたい。
 同罪とされるのだから、何か情報を知っているはずだ。

「安葹殿、洽へ行きましょう。ここで待っていても、仕方ありません」

「今から行って、間に合うでしょうか……まぁ、確かにそれ以外私に出来る事もなさそうなのですが」

 安葹は水の入った杯を握り直した。
 匯から洽まで、徒歩でなら一月以上かかるだろう。しかし、馬ならば何とかなる。
 これから暫くは懐の寂しい日々が続きそうだ。

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