鮑舒は衝立から顔を覗かせ、普通の客を気取りながら様子を見遣る。

「都からのお達しである! 反逆者、昂醒(コウセイ)の首に、五百万銭の懸賞をかける――」

 その大きなドラ声が店内に響き渡ると、鮑舒の隣で安葹が息を飲んだ。
 昂醒。何処かで聞いた名だが、何処だったか。

「――なお、堰の史穿、及びその息子灯(トウ)は反逆に手を貸した罪で死罪となった。そして洽の史煉(シレン)殿も同じ疑いがかけられている為、近々州境を閉鎖するとの事――」

 確か、史穿殿は黒乕一味に攻められた時に戦死したとか……。
 ドラ声士卒の読み上げる書類の内容に、鮑舒は度々首を傾げた。
 堰、史穿殿、反逆者昂醒……。

「……そうか。安葹殿は――」

「そこの、お前達!」

 ドラ声士卒が鮑舒と安葹を見付け声を上げた。
 鮑舒が先にぱっと立ち上がり、士卒と応対を始める。こう言った場面には慣れている。

「兵士さん。何か、私達に御用でしょうか?」

 にこやかな笑顔を見せながら、鮑舒は答えた。ヒゲ達磨士卒は鮑舒より背が低い。

「情報では、昂醒一味に外国人がいるとの事でな……貴様、怪しいぞ」

 まぁ、なんと実直なんだろうか、と鮑舒は内心苦笑した。
 ここで「そうですよ」などと答える馬鹿がいるものか。

「いえ、滅相もありません。私達は昊(コウ)から来た、ただの行商人です。……そうです」

 鮑舒は腰の小物入れから小さな小瓶を取り出した。

「昊の酒です。見本として持ち歩いている物なのですが、一本どうぞ」

 そう言いながら士卒に小瓶を握らせる。
 昊の酒は強く、味が良い事で有名で、中々入手しにくい一品である。
 案の定士卒は一瞬顔を綻ばせ、酒瓶を懐にしまい込む。

「うむ……今は世情が安定せん。早く昊へ帰ったほうがよさそうだぞ」

「お心づかい痛み入ります。旅仕度が調い次第、南へ旅立とうと思っておりますので、それまではこの町に御厄介になると思います……」

 「大人しくしていろよ」と言いながら、士卒は踵を返し、入口へと歩いて行った。
 物分かりの良い男で助かったと鮑舒は安堵し、自分の席へと座り直した。

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