一夜明けて。
 鮑舒は桓虔と別行動をとり、黒乕についての情報を集める為、匯の町中へと歩み出た。
 すうっと空気を肺に吸い込むと、まだ爽やかな冷たさがある。
 町は朝市などが開かれる所為だろうか、早くから活気に溢れていた。
 だが、何処となく暗い影が纏わり付いているのは何故だろう。

「あれ? 鮑舒殿ではありませんか」

 背後から、何処かで聞き覚えのある男の声で呼び止められた。
 瓏の言葉ではあるが、鮑舒とは少し違う訛りがある。

「これは安葹(アンシ)殿。奇遇ですな……」

 振り返ると、褐色の髪の蒼い瞳の男がにこやかに微笑み、鮑舒に手を降っていた。
 確か陸異(リクイ)と言う名前の男で、字を安葹と言うのだ。
 この国に来て初めて出会った男で、やはり鮑舒と同じようにこの国の人間ではないらしい。
 それなのに、この男は瓏の為に働いていると言っていた。

「確か鮑舒殿は黒乕なる部隊を追い掛けていらっしゃるのでしたな……」

 何故だか安葹は表情を曇らせる。

「立ち話より、茶でも飲みながら話す事に致しましょう」

 鮑舒はただならぬ雰囲気を感じ取り、手頃な茶屋へと誘った。
 人気がなさそうな場所に陣取り、声を潜めて二人は言葉を交わし始める。

「私は今まで堰にいました……どう言う事か、お解りになられますな」

 安葹は言葉を濁す。
 都は遥か。とは言え、ここは歴とした角孔一派の勢力圏内。
 彼等に対して、あまり悪い事が言えないような状況下である。
 安葹が言いたいのは、黒乕と対峙して来た、と言う事だろう。

「そうですか……命が助かって良かった」

 途中の村の様子を思い浮かべ、命が助かったのは奇跡的だと思えた。
 だが安葹は首を振る。

「私の命など二の次なのです。それよりも――」

 どたばたと、品の無い足音が店の入口から響き、安葹の話は中断した。

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