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「彼女は何処にいる? ……“s0420”の現在地は何処だ」
黒服が尋ねると、画面は一時検索中に切り替わるが、すぐに検索結果を映し出す。
『“s0420”実験体は、現在閉鎖区画となっている、第8研究エリアにその存在が認められます』
「第8は閉鎖……まさか……」
黒服は慌てた様子で振り返った。 第8研究エリアと言うのは、黒服が今いるこの研究所の最深部に当たる。 このエリアに来たばかりなのだが、今画面には閉鎖とある。 黒服が振り返った先に見たものは、満面の笑顔を浮かべる、長い金髪の女の姿だった。 濃い紫のイブニングドレスに身を包んだその女は、ゆっくりと同じ色の瞳を開く。
「やっぱり幻影の名は伊達ではないのね? 私の仕事が一つ減ってしまったわ」
女の胸元には、黒服の腕章に描かれている紋章と同じ形の入れ墨があり、異様に目を引く。この女も“運命の夜想曲”メンバーなのだ。 黒服は心中で舌打ちしつつも、虚勢を張って見せる。
「このような場所に、貴女自らが御出座しとは……もう既にブルメルは断罪済みですが、他に何か?」
「あんな男の事は、如何でも良いのよ。それよりも……いるんでしょう? 私が知らないとでも思って?」
女はニコッと微笑む。 その笑みは妖艶で、どこと無く人間離れした冷たさを感じさせる。
「彼女……いえ、“鍵”はもう確保なされたのですか?」
「いいえ。……今回の功労者である貴方と一緒に迎えに行こうと思って」
「……そうですか。それは光栄ですね」
全てを見通す目を持っているかのような女の瞳を、黒服は内心複雑な思いで見詰めた。
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