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――天高々と鳴りしは神の声 地にも響けや雷神よ 轟け 天地数多の地べた摩りへ 貫け 召喚せし我に仇成す者に 下せ 神の怒りを――
指に宿らせた光が、幾何学な模様を空中に描き、少女は魔法陣を完成させた。 その陣は拳大に集まり、弾けるようにその光の中から青い稲妻が飛び出す。 よもや杖を使わずに魔術が放てるとは思っていなかったらしい茶髪の男は、何の防衛手段も取っておらず、青い光の直撃を受け手にしていた長杖は吹き飛んだ。 それと同時に、ライネを縛っていた魔術は力を失い、ぼてっと地面にほうり出される形になった。
「ここからは、貴方がたのお仕事のようですね」
少女は小さく言ってその身を引く。 アドルフは頷き、ウェストポーチからロープを取り出し、男のもとへと向かった。
「話は王都に帰ってから伺いましょう」
腕を縛り上げ、アドルフは腰を摩りながら立ち上がろうとしているライネに声をかける。
「怪我は無いか?」
「『怪我は無いか』ではありませんよ……何があったんですか、隊長。何かに憑り付かれたかのように、壁に見入っていましたよ」
それを聞いてアドルフは首を捻った。 壁に何が描かれているのかを見ようと振り返ると、翼の消えた少女がぐったりと座り込んでいる姿が目に入り、茶髪の男をライネに任せてアドルフは少女に近寄る。
「大事は無いか? 無理をさせたようだな……」
少女からの返答は無く、アドルフはその軽い体を持ち上げ、ライネを振り返った。
「とにかく、今は都へ帰ろう。この人形使いと、翼の少女……フィンメル達が運べるか少々心配だが……」
自分で言って、アドルフは竜達の存在を思い出し、恐る恐る閉じていた心を開いてみる。
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