いつも通り彼女の部屋に帰ると、彼女は床でぐっすりと眠っていた。昼寝の続きだろうか。窓の外は日が沈んだばかりで青い。コートをかけてからタオルケットにくるまる彼女の横に腰をおろす。小学校のプールで泳いだあとに昼寝をしていたら、こんなところに漂流してきてしまった。彼女の寝顔はそういう感じ。

マチルダ『私はもう大人よ、あとは歳をとるだけ』

僕はあわててテレビの音量を下げる。テレビがつけっぱなしになっていることにも気づかなかった。映画。レンタルビデオの店が今週末だけ半額だから一緒に行こうと約束していた。覚えてるかな。

こうして彼女の部屋に入り浸るようになってどのくらい経っただろう。この部屋には僕の部屋着や代えのシャツ、下着、歯ブラシ、増えたものを数えればきりがない。さすがに寮の部屋には呼べないけれど、食堂には彼女のために灰皿が置かれるようになった。彼女は煙草を吸う。不釣り合いだけれど、どうしてかよく似合う。赤い箱のポールモール。暗い食堂で、マッチの火を煙草に移す彼女はとても美しい。どの季節を思い返しても彼女がいる。どの生活の場面の彼女も愛おしい。けれどこうして眠っているときの彼女は、とりわけ。少女だった彼女は歳だけを重ねてこの夜まできた。無垢で無邪気で、けれど僕みたいに子供っぽくなくて、官能的。誰にも教えたくない。僕は汗でこめかみに張り付いた髪を耳にかけてやる。顔のすぐ横に置かれている白い手を握る。テレビの中で殺し屋が銃を撃ちあう音に紛れて、彼女の寝息が聴こえている。好きな人の寝息って、どうしてこんなにも泣けるんだろう。n、と彼女の名前を囁く。気恥ずかしさよりも愛しさが勝って、僕は閉じられたまぶたにそっとキスを落とす。こうすると彼女はいつも「ほんとうにわたしのことが好きなのね」と嬉しそうに言う。そうなんだ。そうなんだよ。どうしようもないんだ。彼女の手をきゅっと握りなおすと、くすくすと笑い声が聴こえてきた。なんだ、いつの間に起きてたのか。騙された。

「ほんとうにあなたって幸せものね。」

そうなんだよ。僕は、もう君じゃなきゃだめみたいなんだ。



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