見境がないのがあなたのだめなところね。

暖炉の前で丸くなっている猫のことを、言っているのだろうと思った。三週間前に拾ってきたこの猫は、僕のいない間にすっかり彼女になついていた。しかし彼女は猫に名前をつけようとせず、また今も彼女の声は慈しむようはあるが、僕を見ずに後ろ姿のままでそう話している。

「この前は怪我をした鳥だったわ。あなたはなんでも連れてきちゃうんだから。」
「嫌だった?」
「女の子を連れ込まなければいいわ。賑やかに暮らすのは楽しいことだし。」

ようやく僕を振り返ってにっこり笑うと、立ち上がって右手に持っていた煙草をもう一度咥えた。

この夜は冬の一歩手前であった。火を入れたばかりの暖炉では小さい炎が美しく燃えて、部屋を曖昧に揺らしている。星の多い夜で、彼女はシャワーを浴びたあとのバスローブ姿で窓枠に座り、煙草を吸って長いこと、外に灰をはらはらと落としては空を見上げてじっとしていた。
煙草を持つ指は、骨ばっているけれど細長く女性的で、爪には今日のドレスに合わせたボルドーが乗せられたままになっている。真鍮の指輪が彼女の手によく馴染んでいる。彼女はゆっくりと煙草を吸い、僕は少し離れたところでソファーに深く沈み、そうしている彼女と猫を順番に眺めていた。

「知ってる?春のお祭りの日には、前の道に大きいテーブルを出して、この通りに住む人たちみんなでパーティーをするのよ。みんなでごはんやお酒を持ち寄るの。とっても楽しいのよ。」

彼女は短くなった煙草を暖炉に投げると、本で散らかったテーブルに小さいグラスをふたつ置いて、おみやげのウイスキーを少しずついれた。足音で目を覚ました猫が彼女にすり寄ると、彼女は「おはよう猫ちゃん」と笑って、大きな手で猫の額をそっとなでた。

「次に会えるのは、お祭りの頃かしらね。」
「……どうだろう。」
「ここで暮らさない?いいところよ。」

あなたとこの猫と。ここで一緒に。そしたら猫に名前をつけるわ。冬はここから雪や星を見て、お酒を飲んで、春になったら花を植えて、パーティーをして、それからどこかに旅行しましょ。
僕に酒を手渡すと、彼女は僕の座るソファーの、肘かけのところに腰を降ろした。
ウイスキーを飲むこともせず、僕をじっと見つめていた。目が真剣だった。
僕も彼女の目を見て、それから膝に手を添えた。

「……愛してるよ。でも、まだ一緒にはいられない。やることがあるんだ。君が待つのがつらいなら、もうここに来るのはやめるよ。でも、あと少しなんだ。あと少しだけ待ってくれないか。」

「……ずるい人ね。」

彼女はしばらくそうしていたが、少しすると目を伏せて笑い、そう言ってウイスキーに口をつけた。

僕は彼女を膝に座らせて、髪を撫でた。
美しい彼女、髪が柔らかくて背が高くて痩せぎすで、おそろしく長い腕を僕の首に回す。いつもは香水の匂いのする首筋から今日は石鹸の匂いがして、お酒のせいか、いつもよりも暖かかった。僕がありがとうと言うと彼女は、怪我なんてして帰ってきたら殺すわ、と笑って、僕の肩に目を押しつけた。泣いているようだった。猫が僕たちを見ていた。僕は彼女の首にキスをして、背中を撫で、夜はどこまでも更けていくが暖炉の火は絶えず、僕たちがひとつしかないベッドで寄り添って眠っても、いつまでも小さく燃え続けていた。



_


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -