◎ Offlimits(1/5頁)
「あっつー」
パタパタとうちわで扇ぎながら部屋へと戻ると、奥村くんはもうすぅすぅと寝息を立てていた。
「寝るん早っ」
まぁ、炎天下、一日中イカ焼きを作り続けて疲れたんだろう。
「…ほんま、子供みたいな寝顔やなぁ…」
むにゃむにゃと涎を零しながら眠るその無防備な顔は、いつもよりずっと彼を幼く見せる。
「…ん?」
布団の端から、黒い、猫の尻尾のようなものがふよふよとはみ出ている。
「あ、クロか……ってちゃうやん!」
一瞬、奥村くんの背中でクロが丸まって寝ているのかと思ったが、クロはふにゃふにゃと飼い主そっくりに、部屋のソファで寝言を呟いている。
「じゃあ、これ…」
怖々と布団を捲ると、それは奥村くんのスウェットから伸びていて、布団を捲ったせいで自由になった先端が、ぱたりぱたりと揺れていた。
きゅ、と柔らかく握ってみると、ピクピクと体が反応する。
「やっぱり…繋がってる?これ。」
「っぅ――…」
奥村くんは小さく呻いてさらに体を丸まらせると、その動きに合わせたように、それはひゅるひゅると俺の手をすり抜けた。
「あ…」
なぜか咄嗟に掴んでしまって、逃げるそれをクンッと引っ張る形になった。
「!!っうぎゃっ!!」
「あ、ごめん、つい…」
小動物が踏みつぶされたみたいなうめき声を上げて飛び起きた奥村くんが、涙目でそれをさすってる。
「いっでぇ…な゛にすんだよっ……」
「ほんまごめんやで。そんな痛いと思わんかったんや。」
本気で痛かったのだろう、蹲るようにしてじとりと睨んでくる奥村くんに、問いかけた。
「奥村くん…てさ、もしかして…悪魔とのハーフ?」
その言葉に今さら思いだしたように、奥村くんは愕然としてから布団に潜り込んだ。
どうしよう、どうしよう、どうしよう
あまりの痛みに、すっかり尻尾を隠すのを忘れてしまった。
「奥村くん…てさ、もしかして…悪魔とのハーフ?」
志摩の言葉にやっと状況を思い出して、思わず布団に潜って隠れたものの、すでに尻尾は完全にバレている。
――腹をくくるしかない。
のそりと布団から顔を出すと、「黙っててごめん…」と呟く。
それ以外、何て言っていいのか、思いつかなかった。
「へー…ほんまに居るんやなぁ。ていうか、ハーフて尻尾あんねや。」
「え…お、驚かないの…か?」
「失礼やなぁ、一応驚いとるで?聞いたことはあっても、見たんは初めてやしなぁ。」
「そっか…俺以外にも…居るんだ…」
ひょうひょうとした、いつもの志摩の態度に、意外と大事にならないのかとホッと胸を撫でおろす。
「あぁ、でもあんまり口外するんは止めときえ。坊や子猫さんみたいに、悪魔に尋常やない恨み持っとる人間は祓魔師にはようけおるからなぁ。」
そして、ふと、志摩の方を見る。
確か、志摩のじいさんも、お兄さんも、サタンに殺された―――
ぞっと、冷たいものが背筋を駆け抜けた。
俺が、サタンの息子だと知ったら、きっと、志摩でも俺を憎むだろうから。
「あ…」
――きらわないで、
知らずの間に、志摩の服の裾を掴んでいた。
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