哀惜の掌 (1/6頁)
学校とメフィストに連絡を入れ、熱を出した雪男を看病するために、俺も一緒に休みを取った。
泣き疲れた雪男が眠るまで、ずっと手を繋いで。
まるで子供の頃に戻ったみたいだ。
すぅ、と小さな寝息が聞こえてくる。
それでもなぜか手を離す気にならなくて。
いつの間にか、弟の手は俺より大きくなってしまった。
大きくて、掌は何度もマメが潰れて硬くなっている。
「…ジジィの手と…おんなしだ…」
照れくさくて言えなかったけど、この手で頭を撫でられるのが好きだった。
俺が知る、家族の掌だ。
そっと、その掌に頬を寄せ、目を閉じた。
ふ、と目を覚ますと、雪男の姿がなかった。
いつの間にか眠っていたらしく、外はもう夜が明けている。
昨日、昼すぎに目を覚ました雪男に、たまご粥を食べさせて薬を飲ませ、体を拭いて、額の冷却シートを貼り替えて。
それからまた、雪男の手を握りながら、雪男が眠るまで隣に居るうちに、俺も寝てしまった。
シーツは、もう雪男の温度を少しも残して居ない。
シャワーを浴びた形跡があるし、祓魔師のコートもない。
「あんな熱があったのに…」
携帯にかけると、数コールの後「はい」と冷静な声が聞こえた。
電話の後ろの方で、何人かの男女の声が聞こえる。たぶん、任務だ。
「雪男!?お前どこに居んだよ!?熱はっ?大丈夫なのか?」
「台所のメモ見てないの?熱は下がったよ。じゃあ、任務だから。」
「ちょっ、待っ、ゆき…!」
ブツリと非情な音を立てて切られた携帯を置くと、台所へ向かった。
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兄さんへ
昨日はありがとう。
朝の検査で熱は下がっていました。
今日から遠方の任務につくので、4日ほど戻りません。
学校には連絡を入れておきます。誰かに聞かれたら風邪だと答えて下さい。
雪男
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雪男らしいと言えば雪男らしいが、なんとも事務的な手紙だ。
「ちぇ、なんだよそれ…。」
何度も読み直しながら部屋へと戻る。
検査とは言え、病院でちゃんと見てもらったなら少し安心だ。
慣れない手つきで携帯のメール画面を開くと、ぽちりぽちりと打ち始める。
『むりすんな』
それだけを打つと、送信ボタンを押した。
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