えきせんとりっくわーるど
メフィ+アマ燐ENDver.
夕方になり、ようやくラストまで保てそうな量のケーキを作り終えた俺は、「ちゃんと学園祭、見て回らなきゃもったいないよ!」という女子の言葉に負けて、休憩しろと追い出されてしまった。
「じゃあ…みんなのクラス行ってみっか!」
そう勢いよく歩き出したものの、数秒後には全速力で逃げる羽目になった。
黄色い悲鳴と野太い雄たけびと共に、カシャカシャとシャッターを切る音と眩しいフラッシュが追ってくる。
角を曲がって、ふと、思い出す。
ここは―――
ノックの音と共に、静かに扉が開く。
「す、すみません…!ここに、奥村君来ていませんか?」
可愛らしい女子の声に、飲んでいた紅茶を置いて「来ていませんよ☆」と答えると、「失礼しました!」とおじぎをして出て行った。
「あんな可憐な女の子が…今流行りの肉食女子なんですねぇ…。あ、燐君、おかえりなさい☆」
「…ただい…ま?」
ぜぇぜぇと、ソファの後ろで息を整える彼――我らの小さな末の弟を見やる。
私が作らせたオーダーメイドのメイド服に身を包んだ燐君が、完璧な着こなしで、私の部屋に帰ってきた。
「水…くれ…」
ドサリとソファに凭れかかると、ぐったりと横になった。
「お水が欲しければ、ちょっとこちらへ…☆」
く、と細い二の腕を掴むと、引き寄せるように軽く引っ張る。
「ん?なんだよ…うお!?」
背中側から両脇に手を差し入れると、ひょい、と抱えあげ、自分の足の間に降ろした。
「?何してんだ?」
「気にしないで下さい☆はい、どうぞ。」
指をパチンと鳴らすと、燐くんの前に、冷たいお茶が入ったコップが現れた。
「いっただきます!」
こくこくと飲んでいる、その小さな体を後ろからそっと抱きしめれば、すっぽりと収まってしまう。
細い腰に手を回して、首筋に鼻先をうずめると、燐くんはくすぐったそうに笑った。
(幸せですねぇ…)
「幸せそうでなによりです。兄上。」
天井から、幸せを壊す破壊神の声がした。
「「アマイモン!?」」
ひょい、と天井から見せた顔は、ときどき「遊びましょう」とやってくる地の王、アマイモンで。
「しゅたっ」
今日はベヒモスは連れていないらしく、くるりと回転して降り立った。
また「遊び」に来たのだろう、飛びのいて間合いを取ると、アマイモンが一気に間合いを詰めてきた。
「っく…!」
また間合いを空けようとした瞬間、がしりと両肩を掴まれて、俺の体中をクンクンと嗅ぎだした。
「奥村燐。なんだかいい匂いがします。」
「へ…?あぁ…さっきまで、ずっとケーキ作ってたからな。」
「ケーキ…?とは何ですか?」
親指の爪をがじがじと噛みながら、きょとりと首をかしげるその姿は、無知の子供のようでなんだか微笑ましい。
「遊び」の攻撃をしかけてくる様子もないし、肩の力を抜く。
「スポンジに、生クリームとかフルーツを挟んだり、周りや上に塗って作るんだ。」
キラキラと目を輝かせて「食べたいです」と言われれば、作ってやりたくなる。
「燐君、奥にキッチンがありますので、アマイモンにケーキを作ってやってくれませんか?こうなるとアマイモンは引きませんので。」
「っよし!!まってろよ、今作ってきてやるから!」
「はぐっはぐっ…んぐ…もぐもぐ…」
「落ち着いて食えよ?」
「あんぐ、むぐ。奥村燐、僕と結婚して毎日ケーキ作って下さい。」
口のまわりにクリームをいっぱいつけて、そんなことをいうアマイモンに、思わず「へ?」と変な声が出る。
「アマイモン。それは私が承諾できないな。」
「なぜですか?奥村燐は兄上と結婚しているのですか?」
「あぁ、そうだ☆」
「ずるいです。それなら僕も混ぜて下さい。」
「しょうがないですね…それでは3人で住むことにしましょうか。」
「ちょっと待て!俺抜きで話をするなー!!」
「だめなんですか?奥村燐。」
「燐君、いいじゃないですか〜☆」
これだから悪魔は!と思う。
自分の心に正直すぎて、拒めない。
「あーもう!今日は晩飯も作ってやる。」
「わーい。さすが僕のお嫁さんです。」
「燐君、ぜひその格好のままお願いしますね☆」
「おまえらっ…///」
*
またもや会話オチ!
←小説TOPへ戻る