えきせんとりっくわーるど
志摩燐ENDver.



「お化け屋敷やで〜あっ、お二人さん、ちょっと寄っていかへん〜?」

えーどうするー?入ってみるー?なんてきゃっきゃゆうてはる女の子を相手にしていると、遠くできょろきょろとしている別嬪さんを見つけ……ってあのネコ耳メイドさんは!!

「奥村くん!!!」

ダッシュで駆け寄ると、奥村くんはぱぁっと顔を綻ばせて、笑いかけてくれた。
ふわりと甘い香りが奥村くんを包んでいて、くらりとする。

「しま!ぉおー!お前も凄い格好だな!」

「へへへ〜ヴァンパイアやで。どうやろか?」

タキシード姿にレプリカの牙に、頬には傷痕メイク。

結構本格的にしてみたつもりなのだが…

「すっっげぇ似合ってる!かっこいいな、志摩!」

俺の周りをくるくると楽しげに回って、全身を見てくれる奥村くん。

「奥村くんも、よう似合うとるで。めっちゃ可愛えぇ」

「へ…?…あ゛――!!」

もしかしなくても忘れていたのか、がしっとスカートの裾を掴むと、俺の後ろに隠れ、どこか隠れる場所でも探すようにキョロキョロ辺りを見回していた。

その恥ずかしそうに、助けを求めるように見上げてくる瞳が、僅かに潤んでいてドクリと心臓が鳴る。

「俺、ケーキ作らなきゃだめだし、戻るなっ。…じゃあっ」

「奥村くん、待って!」

パシっと細い腕を掴むと、びっくりしたように蒼い瞳が俺を見上げた。

「夜の花火の打ち上げ…一緒に見てくれへん?」

「はなび??」

正十字学園の学園祭の最後には花火の打ち上げが行われる。

そして、最後の1発が上がると同時にキスをしたカップルは永遠に幸せになれるという、ありきたりなジンクスもある。

「6時に、調理室で。」

それだけを耳元でささやくと、奥村くんの腕を放した。










「こーへん、かぁ…」

ぽん、ぽんという花火特有の音が聞こえる。

調理室には、さっき奥村くんが纏っていた、甘い香りが辺りいっぱいに広がっている。

もしかしたら杜山さんと過ごしているのかもしれない。

(若先生と一緒やったら…なんや凹むなぁ…)

花火はもうすぐ終わってしまう。

はぁ。と溜息をついた瞬間、カラカラという扉の開く音が聞こえた。

「しま?」

「っ奥村くん!」

走ってきたのだろう、乱れた呼吸を直しながらこちらに近づいてくる奥村くんの手を、思わず掴んだ。

「来て、くれへんかと思た…」

「んなわけねーだろ!ごめん。片付けに手間取っちまって。」

ドドドドンという花火の音が連続で聞こえて、二人で窓から上を見上げると、数十発もの花火が同時に、そして消える度に次々と打ちあがって、夜空を飾っていた。

そして怒涛のような音が止んだ瞬間、ヒュル、という高い音が聞こえた。


――最後の、花火。


そう思った瞬間、考えるより早く、掴んでいた腕を引きよせていた。

「しま…っぅン…!」

ドンッと一際大きな音が鳴って、パチパチと炎が弾ける音がした。

最後の花火は見ることが出来なかったけれど。

甘い香りに包まれたまま、柔らかい唇を食む。

ただ、ただ、幸せだと思った。



ちゅ、と小さな音を立てて、名残惜しげに唇を離す。

「…ごめんな、奥村くん」

こんな情けない顔を見られたくなくて、力いっぱい抱きしめる。

「…んで、」

自分の体に押しつけるようにして抱きしめた奥村くんが、ぽそりと何かを呟いた。

「え…?」

「なんで謝んだ、っ」

「へっ…?」

少し体を離すと、真っ赤な顔をした奥村くんが、涙目で睨むように見上げてきた。

「謝んならっ…すんな!!」

――その言葉に。

「…期待、しても…えぇんやろか…?」

「…っっ!…す、っすれば、いーだろっ」

その言葉に、ぎゅうう、とキツく抱きしめると、大きく息を吸う。
どこの学校にでもありそうなジンクス、信じてえぇやろか。


「奥村くんのことが、好きや。俺と付き合うて下さい。」


抱きしめた腕の中で、小さく奥村くんが、頷いてくれた。




*
ヴァンパイアコスプレの志摩とゴシックメイドな燐の組み合わせ☆似合うだろうなー(笑)


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