カルバリの丘 前編
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「ふわぁ〜。あー3限目始まってしもぉた…」

盛大に欠伸をした俺は、急ぐこともなくのろのろと教室へと向かっていた。


昨日、奥村くんとなんやかんやあって、眠れるはずもなく。

結局うとうとし始めたのは、坊がジョギングに行く準備を初めている頃だった。

そしてもちろん起きれるわけもなく。

「どうせなら昼から来たらよかったわ〜」

たしか3限目は数学で4限目は体育だったはずだ。

こんな寝不足の状態で頭も体もまともに動くはずない。

「…めんどくさぁ。」

階段を登り終えたところで、教室に向かうのをやめて、行き先を保健室に変更する。

くるりとまた階段を降りようとした瞬間、視界の端に人影が動いたのが見えた。

(うお!やべ。)

授業が完全に始まっている時間に堂々と廊下を歩いているのを教師に見つかれば、怒鳴られて面倒くさいことになるのは確実だ。

こういう時だけ機敏に柱に隠れると、人影を確かめるようにこっそりと頭を半分だけ覗かせた。


「…奥村くん…?」

よたよたと壁に手をついて、腹部を押さえながらゆっくりと歩いているその姿は、ひどく体調が悪そうで。

どうせ自分も保健室でサボるつもりだったし、となぜか言い訳がましく思いながら―――本当は、昨日のせいでどこか体調を悪くしたのか、とか、もしかして昨日のことが若先生にバレて腹をどつかれた、とかだったらどうしよう、なんて考えていたのだけれど。


「奥村くん、なにしてはるん?」

我ながらせこいやり口だが、まるで気付いていない風に、ただ通りかかったみたいに声をかけた。

俺の声にびくりと肩を震わせたけれど、奥村くんはこちらを向く様子もない。

(もしかして、俺の顔も見たぁないとか…?)

ズキリと痛んだ胸に気付かないふりをして。

だけど近くで見ると、体を支えている腕すら小さく震えていて、本当に体調が悪そうだった。

「しんどいん?もしかして、どっか悪いん?」

せめて支えようと、変に緊張しながらも腰に腕を回した瞬間、奥村くんは掠れた声を上げて、崩れ落ちた。


痛そうなくらい両手で自分の腕を押さえ、びくびくと体を震わせる奥村くんに、昨日のことが鮮明に思い出される。

「っぁ、っ…っ」

(まさか、)

「おくむらくん…」

沸き上がる信じたくないような考えに、ぞっとしてもいいはずなのに、ぞくりと腰に甘い痺れが走る。


奥村くんに触れた瞬間、拒絶するように「触るな」と手を払われた。

涙が滲む蒼い双眼と目が合った瞬間、体が勝手に動いていた。

軽い体を横抱きにすると、視界に入った視聴覚室の扉を開けた。

まるでこれが正しいことだと、後押しされているかのように、視聴覚室は使われていなかった。


「あ…!しまっ、待っ」

「かんにんな、奥村くん。」


奥村くんの様子で、なんとなく、分かってしまった。



きっと、若先生は、奥村くんを抱いている。


そして昨日のこともバレていて、尋常じゃない独占欲を刻みつけている。




(ないしょごと、しようや奥村くん。)


ぞくり、と背徳感に背筋が震えた。





―――
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