カルバリの丘 前編
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※玩具・放置・志摩燐要素有り


「…ッ」

ぎり、と歯を食いしばって、じわじわと侵略してくるような波に耐える。

空調が効いた部屋なのに、じっとりと汗が滲んで、周りの声が遠く聞こえる。

何度も何度も、僅かに顔を上げて黒板の上の時計に目をやるが、いつもの何倍も時間が進むのが遅いような気がして仕方がない。

そして時計を見上げるという僅かな動きにすら、『ソレ』は内側からじりじりと熱を運んでくる。

そんな状態で、もうすぐ2時間が経過するところだった。










――今朝。


「起きて、兄さん。」

「ん…んむ…う…」

ふわふわと雪男の柔らかい声が鼓膜を揺らす。

ゆっくりと髪を梳かれる感触に、また深い眠りに落ちそうになったところで、ぴちゃり、と首筋を舐められる感触に目を覚ました。

「ゆき、お、なにっ…」

「おはよう兄さん。今日はちょっと早く起きて。準備あるから…」

「なっ、う…ッ」

寝起きで脳みそがぐらぐらしたままの俺のことなんて関係ないというように、雪男は勢いよく布団をはがすと太股にまたがり、俺の胸を舐めたり噛んだりし始めた。

「やめっ…」

震える手で雪男の肩を押すと、雪男はふ、と小さく笑ってキスをしてきた。

「ゆ、…っん…」

ぬる、と控えめに雪男の熱い舌が入りこんできて思わず目を瞑ると、深く舌を差し込まれて、ざらりとした舌が上顎をなぞる。

とろとろと唾液を送り込まれ、自分のものと混ざって溢れそうになったのを思わず飲み込むと、小さな痺れが背中を走った。

雪男のキスはいつも俺の頭をぼーっとさせる。

「っんう…あ、…っは、」

解放された口で文句を言おうとした瞬間、そっと尻尾を握られて、ひくりと喉が言葉を遮った。

「兄さん、暴れないでね?」

「な、に…っあ、ぅ…ン」

握ったままの尻尾を甘噛みされて、じん、と熱が湧いてくる。

「いやだっ…ゆ、き…!」

じわりと滲んでくる涙の向こうで、雪男がまた柔らかくほほ笑んだのが見えた。

空いた左手をポケットの中に入れると、銀色の輪っかのついた黒い小さな布切れのようなものを出してきた。

「っう、あ!」

ひやりとした手で自身を包まれたと思った瞬間、雪男の手よりも冷たい何かが当てられる。

びっくりして自分のものに目をやると、銀色の輪っかが2つ、自分のものに通された。

「な……っ痛、あ!!」

吃驚して起き上がって止めようとした瞬間、ぎゅ、と尻尾を握られる。

「っひ…うあっ」

ぱちん、と今度は黒い皮のような布で留められ、感じたことのない下腹部の圧迫感に、息が詰まる。

「なん、だよ…これっ…!」

「兄さんが、僕以外の誰かの手で、…イっちゃったりしないように」

「あ…あれは…っ!」

雪男の言葉に、思わず視線を反らしてしまう。

「あぐっ!」

ぎゅ、と尻尾を握られ、雪男を睨むと、怒りで揺れる雪男の蒼い眼が俺を射抜いた。

「僕以外がこれを外すことは許さない。…自分で外すことも、ね」

いつもよりずっと低い声で、直接脳に命令するようにゆっくりと紡がれる。

思わず頷くと、今度は優しい声で「兄さんにプレゼントがあるんだ」と言われた。

さっきとは反対側のポケットに手を入れた雪男に、ぎくりとしたが、雪男が差し出してきたのは、きれいな真珠のネックレスのようなものだった。

ネックレスにしては短く、先には透明の紐のようなものがついている。

「…ストラップ…?」

「ふふ、…知りたい?」

満面の笑顔に、嫌な予感がして首を左右に振って拒否すると、また尻尾にじわじわと力を入れられて、思わず頷いた。


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