えきせんとりっくわーるど
雪燐ENDver.
「奥村君、またケーキ作ってきてくれないかな?さっき奥村君が作ってきてくれたの無くなりそうなの…」
奥村君が作ったケーキがおいしい、って口コミで広がってるみたいなの。
なんて言われれば、にやけてしまいそうな口元を必死で噛みしめる。
「全然いいぞ!出来たらすぐ持ってくるな!」
「僕も兄さんを手伝うよ。こっちは心配しなくていいから。」
雪男がふわりと笑いかけると、女の子たちは目をハートにして頷いている。
「ゆきおっ!いくぞ!」
それがおもしろくなくて、咄嗟に雪男の手を掴むと、足早に教室を出て調理室へと向かった。
クス、と雪男が微かに笑っていたことなんて、知る由もなく。
広い調理室にはオーブンが10台もあって、全てをフル活用させてもらっている。
今度は生地に抹茶やキャラメルを入れてみたり、ロールケーキも作ってみようと、それぞれ趣向の違う生地を焼いてみた。
「よしっ、とりあえずスポンジが焼き上がるまで…俺はクリーム作るから、雪男はフルーツ切ってくれ!」
ボウルに材料を入れてクリームを作る準備をしていると、ダンッ!と何かが渾身の力で切断される音が聞こえた。
びっくりして隣を見ると、雪男が眉間に皺を寄せて、柔らかそうなキウィを真っ二つにしている。
「えぇぇ!?いやいや、それ悪魔じゃねーぞ?もっと、スッと、こう………雪男、洗い物してくれ…」
料理だけは全くできない雪男に、教えるのは早々に諦めることにした。
少ない洗い物をさっさと済ますと、かしゃかしゃとクリームを作っている兄さんの腰に、後ろからそっと手をまわす。
「ちょっ…ゆきおっ、こそばいからやめ…っ」
じゃまだと言わんばかりに、肘で体を押し返されたことに若干気分を害した僕は、くい、と襟を引っ張ると、そこに口づけて、きつく吸ってやる。
兄さんは心底びっくりしたように体を跳ねさせると、僕の身体をべりっと引っぺがすようにして逃げた。
「なっ…// おま…っ、まさか…」
うなじを手で押さえて真っ赤になっている兄さんに、不敵な笑みを返すと、ぱくぱくと何度か鯉のように口を動かしたあと、拙い口調で怒りだした。
「きす、まーく…っ、つけただろ!」
「だって兄さんそんなに可愛い格好してるのに、かまってくれないんだもん…」
絶対領域なんて誰が言いだしたのか。まったくその通りだと思いながら、無性に惹かれる、黒いレースとニーハイの間に手を伸ばす。
「『もん』って言うなっ…うぎゃっ…!どこ触って…っ」
「もう。もっと色っぽい声出してくれる?」
日に焼けることのない、白い太股は滑らかで。
「…ねぇ、舐めてもいい?」
そう耳元でささやくと、兄さんは顔を真っ赤にして怒りだす。
「へ、変態っ!変態ほくろめがねっ!!何考えてんだ!学校なんだぞっ…」
「へぇ。学校じゃなきゃ、いいんだ?」
うぐ、と言葉に詰まってしまった兄さんに、頭を撫でて「ごめんね、苛め過ぎた」と言ってやると、悔しそうに上目使いで睨んできた。
「だから煽らないで欲しいんだけど…」
「…??」
兄さんが僕の言葉の意味を不思議そうに考え始めるとほぼ同時、ピーーというオーブンの音が邪魔をした。
「あ!クリームまだ作ってない!!雪男っそれ全部取り出して!」
瞬間的に主夫の顔に戻った兄さんに、残念に思いながらも、やっぱり兄さんの料理している姿は好きだと思った。
(あ。今日はこの服借りて帰ろう。)
そんな僕の内心なんて知らないまま、兄さんは真剣な顔で最初に取りだしたスポンジを、クリームでデコレーションしていた。
「完成したら僕が教室に運ぶよ。」
「へ?二人で持っていった方が早いだろ?」
きょとん、と僕を見てくる兄さんに、トントンとうなじの部分を指先で軽く叩くと、しばらくして思いだしたのか、また真っ赤になって僕の傍から逃げてしまった。
「ゆきおのばーか!さっさと持っていけっ」
「ふふ、次のケーキ作って待っててね。」
本当はキスマークは見えない位置につけたけれど。
(十分兄さんの可愛い姿は自慢したし、これ以上はもったいないからね)
*
ポップな話では、雪ち
ゃんは爽やかな変態に位置づけられています。←
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