直者の嘘
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今日は任務も入っておらず、明日のプリント作成も寮で作ろうと、少し早めに戻ると、兄さんの姿はなかった。

しばらくして、開けていた窓から走る足音と扉の開く音、そして少し経って下の階からバシャバシャと水の音がした。

不審に思って階段を降りていくと、蛇口の下に頭を突っ込んでいる兄さんが見えた。

まるで、何かを無かったことにしたいみたいに。

声をかけると、予想通り、ひどく動揺している。
優しく笑いかけると、安堵したような表情。

(ねぇ、なにか、僕にやましいことでもしてきたの…?)

志摩君の名を訂正するように『京都三人組の寮に行ってきた』と言った兄さんに、一つの可能性が思考から離れない。

(…確かめなきゃ…)

すっかり安心しきっている兄さんの背後に静かに忍び寄って、腰に自分の腕を巻き付けた。





「…ねぇ、兄さん、…したいな」

ねっとりと耳の裏側を舐めながら耳元で囁くと、兄さんの身体がぶるりと震えた。

「…っゆ、き!?ぁ、やめっ、俺、風呂にっ」

横から首筋に噛みつくと、ひくりと喉が戦慄く。

「じゃあ、お風呂でしよう。…そうすれば汚れないしね…?」

そう言うと、ぎくりと兄さんの身体が強張る。

――ねぇ、兄さん、『何』を洗い流したいの?

頭の中を巡る可能性が、離れてくれない。

カチャっとバックルを外すと、勢いよくベルトを引き抜いて投げた。

カンッという床と金属がぶつかる音に、びくついた兄さんの制服のズボンを、下着ごと引きずり下ろと、悲鳴のような拒絶の声が上がった。


「……ねぇ、にいさん、なに?これ。」

「ぃだい゛っあ゛!っ放…ぐっ!」

痛みを与えるつもりの力で、遠慮なく兄さんの自身をきつく掴む。

それはじっとりとぬめりを帯び、下ろした下着も濡れていた。

ぼろぼろと涙を零す兄さんを可哀そうだと思いながらも、だって当然じゃないか、という思考が脳内を占める。

だって、ひどい裏切りだ。

「は。僕とする時は『いやだ』ってばっかり言うのに、もう誰かに足開いたの?…あぁ、誰か、じゃなくて、…志摩君か。」

その名に、正直に体を震わせて反応する兄さんは、「ちがう、ちがう」と首を横に振っている。

「何が違うの?ねぇ。いつからこんな淫乱になったんだろうね。」

「あぐ…!ほ、ほんとにっ、して、ない、してないっ…!ゆ、きっ!っ信じ、っう゛あ!!」

嘘をついている風でもないが、まだ信じきれない。

握った少し手を緩めると、痛みから解放されて力の抜けた兄さんの腕を引いて、風呂場へ強引に連れていく。

「…じゃあ、話してくれる?今日、何してたか。」

そう聞くと、少しためらったあと、ぼそりぼそりと真っ赤になって話し始めた。


「志摩の、寮に遊びに……映画だと思ったら、その、…そーゆーやつ、で…」


一瞬、目を泳がせたのを見逃さなかった。


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