正直者の嘘 (3/7頁)
はっ、はっ、はっ、
鍵を使うことすら忘れ、気が付いたら志摩の寮を飛び出して走っていた。
さっき起こったできごとがぐるぐると頭の中を巡る。
『AV見ながらカキっこなんかフツウやで?』
そう言った志摩の声と、女の子の声がこだまする。
恥ずかしすぎる。あんな、こと。
はっ、はっ、はっ、
走っているうちに、この記憶が零れ落ちてくれないだろうかと思う。
明日、どんな顔をして会えばいいんだ。
志摩は、こんなこと、フツウなのか。
はっ、はっ、は…
ぽたぽたと汗が髪を伝って地面に落ちた。
ガチャリと、ひどく重く感じる寮の入り口の扉を開け、階段を登り洗面所へ着くと、頭ごと水の中に突っ込んで冷やす。
(そうだ、風呂、入ろう…)
そのまま飛び出してきたから、下着が湿っていて気持ち悪い。
志摩の手が腰に回る感触が残っていて、じん、と腰に痺れが走った。
着替えを取りに、一度部屋へ戻ろうと踵を返そうとした瞬間、背後から静かな声が聞こえた。
「何してるの?」
ぎくり、と。
雪男の声がまるで糸のように、体中に絡まった。
いつもは塾の後も片付けや任務で、まだ帰っていないはずの時間だ。
「い…や、ちょっと、暑、くて…」
「ほんとだ、汗だくだね。シャワー浴びてきたら?」
「お、おう!そうだな!」
ほっとして、雪男の横をすり抜けようとした瞬間、ひやりとした手で、腕を掴まれた。
「っ…な、んだ…?」
「そういえば兄さん、遅かったけどどこか行ってたの?」
一瞬、あの時間が脳裏をよぎる。
「ちょっと、志摩…京都三人組の寮、見せてもらいに…、っでも、すぐ帰ってきたし!」
「…そう」
じわり、と俺の体温と雪男の体温が溶けていく。
「俺、シャワー浴びてくるから、手、離し…」
「あぁ、ごめんね。」
笑顔のまま、ゆっくりと手を放される。
なぜか、雪男の雰囲気がいつもと違うような気がして、後ずさるようにしてゆっくりと離れた。
今登ってきた階段を降りて、風呂場へと向かう。
着替えを取りにいけなかったけれど、この際風呂に入る方が先だ。
ぐい、とTシャツを脱いだ瞬間。
ほんの30分ほど前に感じた、人の手の感触がまた、ゆるりと腰に回った。
「…っ!!」
「…ねぇ、兄さん、…したいな」
いつの間にか後ろに居た雪男の腰に回った手が、まるで逃がさないとでも言うように、絡まった。
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