直者の嘘
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はっ、はっ、はっ、

鍵を使うことすら忘れ、気が付いたら志摩の寮を飛び出して走っていた。

さっき起こったできごとがぐるぐると頭の中を巡る。


『AV見ながらカキっこなんかフツウやで?』

そう言った志摩の声と、女の子の声がこだまする。

恥ずかしすぎる。あんな、こと。


はっ、はっ、はっ、

走っているうちに、この記憶が零れ落ちてくれないだろうかと思う。

明日、どんな顔をして会えばいいんだ。

志摩は、こんなこと、フツウなのか。


はっ、はっ、は…

ぽたぽたと汗が髪を伝って地面に落ちた。

ガチャリと、ひどく重く感じる寮の入り口の扉を開け、階段を登り洗面所へ着くと、頭ごと水の中に突っ込んで冷やす。

(そうだ、風呂、入ろう…)

そのまま飛び出してきたから、下着が湿っていて気持ち悪い。

志摩の手が腰に回る感触が残っていて、じん、と腰に痺れが走った。

着替えを取りに、一度部屋へ戻ろうと踵を返そうとした瞬間、背後から静かな声が聞こえた。

「何してるの?」

ぎくり、と。

雪男の声がまるで糸のように、体中に絡まった。

いつもは塾の後も片付けや任務で、まだ帰っていないはずの時間だ。

「い…や、ちょっと、暑、くて…」

「ほんとだ、汗だくだね。シャワー浴びてきたら?」

「お、おう!そうだな!」

ほっとして、雪男の横をすり抜けようとした瞬間、ひやりとした手で、腕を掴まれた。

「っ…な、んだ…?」

「そういえば兄さん、遅かったけどどこか行ってたの?」

一瞬、あの時間が脳裏をよぎる。

「ちょっと、志摩…京都三人組の寮、見せてもらいに…、っでも、すぐ帰ってきたし!」

「…そう」

じわり、と俺の体温と雪男の体温が溶けていく。

「俺、シャワー浴びてくるから、手、離し…」

「あぁ、ごめんね。」

笑顔のまま、ゆっくりと手を放される。

なぜか、雪男の雰囲気がいつもと違うような気がして、後ずさるようにしてゆっくりと離れた。



今登ってきた階段を降りて、風呂場へと向かう。

着替えを取りにいけなかったけれど、この際風呂に入る方が先だ。

ぐい、とTシャツを脱いだ瞬間。

ほんの30分ほど前に感じた、人の手の感触がまた、ゆるりと腰に回った。

「…っ!!」




「…ねぇ、兄さん、…したいな」


いつの間にか後ろに居た雪男の腰に回った手が、まるで逃がさないとでも言うように、絡まった。


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