直者の嘘
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まさかとは思っていたけれど、奥村くんは始まるまで本当にAVだということがわかっていなかったらしく、本番が始まった瞬間からの奥村くんの反応が、尋常じゃなかった。

「し、しま…たのむからっ、とめ…」

途中から、甘ったるい女の子の声よりも、奥村くんの声の方が気になってくる。

首まで真っ赤にして、三角座りで耳を塞いで縮こまっている奥村くんが、俺の名前を呼ぶ。

「しま…っ」

(名前を、呼ばれただけ、なんやけど…)

縋るみたいに見上げてくる眼に、余計に嗜虐心を刺激される。


安心させるように笑顔を向けながら、奥村くんの背中とソファの隙間に体を落とす。

「し、しま…?」

するりと両脇腹から手を差し込むと、カチャカチャとベルトを外した。

「!?志摩っ」

びっくりして俺の手をきつく掴んだものの、手を離したせいでダイレクトに聞こえる女の子の嬌声にびくりと力が緩まる。

その隙を見逃がすわけがなく、掴まれている手を振り払うようにして、奥村くんの自身を少し強めに握る。

「っひ、…っ!志摩、何やって、やめっ」

(ほんま、何やってんねやろぉな、俺。)

「…大丈夫や、AV見ながらカキっこなんかフツウやで?」

どこのフツウやねん。と自分に突っ込みながら、

「う、そ…っ」

「ほんまほんま。な、ココとか気持ちえぇやろ?」

「ぁう…!っ、は、」

震えて縮こまる体を溶かすように、裏筋を撫であげ、ぐりぐりとカリ首を揉み、先端の先走りを親指でなぞる。

「ちゃんと見やなあかんやん、折角の無修正やのに」

空いていた左手で、俯いたままの奥村くんの顔をそっと上げさせと、ぽたぽたと顎を支えていた手に水滴が落ちた。

(泣かして、しもた…)

「う、っや…ぁ!…んン…!」

お詫び、とは違うけれど、気持ちいいことに集中させてあげたくて、先走りを指に絡めてぐちゅぐちゅと音を立てて竿を擦る。

「あ、あ、ひぁ…っ」

AVなんてもう景色の一部で、あろうことか、男の竿を擦りながら、俺の自身も反応している。

(…これ、マズない?)

そう思うものの、止められない。

奥村くんの掠れた喘ぎ声が、俺の腰を一層重くさせる。


びくびくと内股が痙攣してきた所で、ラストスパート、右手で竿を擦りながら、左手で先端をぐりぐりと刺激してやる。

「っあ、あう…!も、もっ…」

熱くて荒い息を吐く奥村くんが、一瞬、歯を食いしばった。

「っン、っゆ、き…!あうぅ!!」

先端を掌でゆるく包むと、びゅくびゅくと白濁が掌に吐きだされた。

「ふぁ…ぁ、」

くたりと体重を預けてきた奥村くんの熱が、じわりと伝わってくる。

他人の精液で濡れた、自分の手を見る。

不思議と、気持ち悪くなかった。


しばらくして、「ティッシュ取りたいんやけど、立てる?」と聞くと、一瞬間を置いて飛びあがり、制服を正すとまた真っ赤になって「っごめん!」と一言叫んで、走って出て行ってしまった。

ぽつりと一人残された部屋には、AVがまるでBGMみたいに流れ続けている。

もう見る気にならなかった。



――っゆ、き…!



「…ってまさか、奥村、先生…!?」

弟の名前を呼びながら達するなんて。

擦りネタが弟なのか、弟に処理してもらっているのか、それとも…

そんなん変態やん、と思うと同時、奥村くんに触っていただけなのに勃起している自分の息子を見降ろして溜息を吐いた。

「あかん、俺も変態やん…」

雑にAVをデッキから引き抜くと、引き出しの奥底に仕舞い込む。


きっと、もうこれを見ることはない。

(見たら、思いだしてしまうやんか…)

彼の、声と、表情を。


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