直者の嘘
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※微妙に志摩燐要素有り

「あ〜脳みそ破裂するわぁ〜!」

「うう゛…俺も…」

まるで黒魔術の呪文のように、聖書の言葉が頭の中を回っている。

さっきの詠唱の授業で、抜き打ちテストがさんざんだった俺と志摩は、チャイムが鳴るまで聖書を音読させられたのだ。

「お前らいっつも授業聞いとらんからや」

「ちゃいますて坊!聞いとらんのやなくて、聞いとっても抜けていってまうんですわ!俺、坊や子猫さんと違ぉて変態やあらしまへんよってー」

「ああ゛!?誰が変態じゃコルァ!」

「うわわわ!奥村くん、逃げよ!」

「うお!?」

ぐいっ、と手を引かれ、そのまま引きずられるようにして教室を出る。

「…っはぁ。あ、せや。引っ張っといてなんやけど、今日一緒に帰らへん?」

「ん?勝呂と子猫丸は一緒に帰んねぇのか?」

「坊と子猫さん、今日は図書館行かはるんやて。ほんま変態やわ〜まだ勉強するつもりやで、あのお二人さん。」

これ以上勉強したらホンマに脳みそ弾け飛んでまうわ!と大げさに言って歩き出す志摩に、笑いながら着いていく。

「あ、せや。奥村くん。ここだけの話やで。めっっっちゃええもん手に入れたさかい、うちの寮こぉへん?坊と子猫さんは最低1時間は戻りはらへんやろし。」

「お?いいけど…ええもん、って何だ?」

「そーれーはー、見てからのお楽しみ、や!そうと決まればちんたら歩いてられん!鍵使お!」

そう言うなり、志摩は手近なドアに鍵を差し込んだ。


ドアの向こうには、正十字学園よりは劣ると言っても、俺らの寮とは比べ物にならないくらい、綺麗で煌びやかな建物が広がっていた。

「うわ!すっげー…」

「そういえば、奥村くんてどこに住んではんの?」

「俺らも寮だけど、もっとボッロいとこだぜ。」

「そうなんや。奥村先生、任務で出たりしはるし、一般生徒に見つかったら大変やもんねぇ。」

「そ、そうだな…!」

嘘をつくときって、なんでこんな喉がぎゅうってなるんだろう。

ごめん、志摩。

「あ、俺らも一応、一般の生徒さんとはちょっと部屋離れてんねん。ほら、あっちの棟が一般。」

そう言って志摩が指刺したほうを見る。

建物の中でも、棟が分かれているらしく、渡り廊下の向こう側には一般生徒が歩いているのが見えた。

「そこの渡り廊下からこっちは理事長が細工してはるんやて。」

どうやら、こちらからは見えるし行くこともできるが、向こう側からこの渡り廊下は見えない細工らしい。

「へー!すげぇな!」

「なっ!理事長何もんなんやろ。あ、そんなことゆうてる暇ないわ!奥村くん、こっちこっち〜」

勝呂と志摩と子猫丸で1部屋らしく、4人部屋と言っても、俺らの寮の倍くらいは広さがあった。


「折角手に入れたゆうんに、坊と子猫さんおらはったら見れへんねんな〜!ナイスタイミングやで奥村くん。」

「手に入れた?何をだ?」

「せやからそれは見てからのお楽しみやって〜」

ぱちりとウインクしてくる志摩に、理解できないまま、中央にあるソファを背もたれに、ラグの上に胡坐をかいて座る。

なにやらごそごそと引きだしの奥に手を突っ込んでいる志摩が、「みっけ」と小さく呟いた。

「これこれ〜」

「…?映画か?」

「またまた〜。ええもん、ゆうたら決まってるやんか〜」

かしゃ、とデッキにDVDを差し込むと、志摩は楽しそうに、俺が背もたれにしているソファに座った。

暫くして始まったその映画は、どうやら日本の学校が舞台のようで、話がよくわからないが、忘れ物を取りに来た女子高生が、教師に怒られているところだ。

「なんでこいつ、いきなり怒られてんだ?」

「そんなんどうでもええねんって!う〜ん、この子顔は好みやけど、髪の毛はロングの方がえぇなぁ〜」

志摩の言葉に、主役だろう、その女の子に目をやる。

大きな猫目で、ぎりぎり肩につかないくらいの黒髪の女の子だ。


その女の子が、今、教師に羽交い締めされていた。


「え……?」

ぎょっとして振りかえってソファに座っている志摩に視線を送ると、

「あ!最初無理やり系やけどレイプもんちゃうから!ほんまはこの子も先生のこと好き設定やから〜」

「…え?何言って、…え!?」

『やめて、先生!』という女の子の叫び声に、ぎくりとして画面に視線を戻すと、女の子の上半身は肌蹴ていて、真っ白な下着が露わになっていた。

「志摩っ、これ…!っと、とめろ!」

「へ?なんで?って奥村くん顔真っ赤やでぇ?」

そう言われると、かあぁと余計に顔に熱が溜まってくる。

「だって、これ、映画じゃ…っ」

『せんせ、だめっ』

「もう、奥村くん静かにしてぇな。これからええとこやのに〜」

『あ…やっ、そこ、だめ…ぇ』

「わ、う…!」

思わず耳を塞ぐが、高い女の子の声は、手を擦りぬけて耳に届いてしまう。

『ぁんっ、せ、んせぇ…!』

「し、しま…たのむからっ、とめ…」
『あっ、あっ、やあっ、あ』

じわりと中心が熱を持ち始める。

「しま…っ」

きつく目を閉じると、昨日の、雪男の準備室の机が目蓋の裏に映った。

揺さぶられるたびに揺れていた視界が、ぐらぐらと目蓋の裏にちらつく。

女の子の高い嬌声が、昨日の自分声と重なる。

「おくむら、くん…?」

頼むから止めてくれ、と視線を送る。


たのむから。思い出させないでくれ――


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