はつこい。
奥村くんを誘って、電車に乗って、街へ行こうと思った。
「…うん、正常や。」
ちらりと横目で、右隣に座っている女子高生を見ながら、真剣な顔で呟いた。
「ん?どした?」
反対側のすぐ耳元で聞こえるその声に、ドクリと心臓が跳ねる。
「…いや、いつも通り、やねんけど…」
「だから何がだ?」
「ちょ、ちょっと奥村くん、待っとって。」
覗きこむようにして、俺を見てくる奥村くんから、必死で目を反らす。
(あかんねん!嬉しいけど!今日は、今日だけは確かめなあかんことがあるんや!)
今度は、斜め向かいに座っているOLのお姉さんを見てみる。
あまりにも真剣に見すぎて、訝しげな顔で睨まれたが、この際どうでもいい。
たわわな胸に視線を集中させ、やっぱええな、と思ったところで、くいくいと服の裾を引っ張られた。
『ま・だ・?』
俺が待っとって、と言ったからなのか。
なぜか口パクでまだかと問いながら小首を傾げるその仕草に、バクバクと心臓が暴れ、変な汗が出てくる。
志摩廉造、そろそろ覚悟を決める時やもしれません。
「おーい志摩、着いたぞ」と、奥村くんに引きずられながら電車を降りた。
俺は女の子が好きなはずや。
むっちりおっぱいも、スカートからのぞく生足も、問題なくトキメキます。
ほら、街歩いたら女の子はチラチラ見てはるし、女子高生は「声掛ける?」なんてちょっと離れたところでゆうてはるし…俺はモテるんや。
「…ってあれ、お、奥村くん??」
格好つけて歩いてるうちに、左側を歩いていた奥村くんが、居なくなっていた。
キョロキョロと振り返って探すと、クレープ屋の前でショーケースに入ったレプリカのクレープを見ながら、目を輝かせている。
「クレープ、食べる?」
少し戻って、後ろから声をかけると、ビクッと肩を揺らして、「…別に、いい」と歩きだしてしまった。
(そういえば、お小遣い月2千円なんやっけ)
そんなことをふと思い出して、さくさく歩いて行ってしまいそうな手を思わず掴む。
「待ってぇな」
掴んだ手首は余裕で指が回ってしまうほど細くて、また心臓が落ち着かなくなる。
「…俺食べたいんやけど、全部食べてしもたら晩御飯食べれへんなるから、半分食べてくれへん?」
そう言うと、「…!しょ、しょーがねーなっ!」と、キラキラした蒼い瞳で見つめられた。
(これは、もう、認めるしかないんやろか。)
どれがいい?と聞くと、もう決まっていたかのように、迷わず一つのものを指さした。
「うん、うまい!はい、奥村くん。」
クレープ屋の角を曲がって、人通りの少ない道端のベンチに座ると、ティラミスケーキとバニラアイスが入ったそれを、一口齧って奥村くんに渡す。
はぐはぐと小動物のように食べるその姿すら、可愛らしい。
「全部、食べてええよ。」
そう言うと、少しびっくりしたような顔をして、へへ、と笑った。
「ずりー…。今日の志摩、なんか、…かっこいいな。」
「うへっ!?」
予想もしていなかった返答に、思わず裏返った変な声が出た。
「ほんとは、クレープ、食べたいわけじゃなかったんだろ、」
俯いた奥村くんが、ぽそぽそと言い難そうに呟く。
「…うん、」
怒られた子供みたいな表情で、見上げてきた奥村くんの口が「ごめん」と紡ぐよりはやく。
「ほんまは、奥村くんに食べさしてあげたかってん。」
そう言って、口端についたバニラアイスを舐め取った。
「!!!なっ!な!っ/////」
顔を真っ赤にして、口をパクパクとさせて声を無くした奥村くんに、
「奥村くんが欲しいもんは何でもあげたいし、奥村くんがして欲しいことは何でもしてあげたい。…そう思うくらい、奥村くんのことが、好きやねん。」
とどめのようにそう言うと、真っ赤になった奥村くんが、小さく、「おれも」と呟いた。
「え、…うーん、…意味、分かってる?」
拍子抜けするくらいに、あまりにもすんなりと頷かれたので、きっとこの天然さんは勘違いしてるのかと思ったけれど。
「わっ…わかってるよ!その…」
キョロキョロと辺りを見回す奥村くんにつられて、右側の通りに目をやった瞬間、
ちゅ。
左頬に微かな熱と、小さなリップ音。
次いで、ガタン!とベンチが揺れる音が聞こえた。
「えっ、今の……って遠っ!!」
振り向くと、隣に座っていたはずの奥村くんの姿はなく、10メートルほど向こうで、真っ赤な顔をして立っていた。
「こっ…、こーゆーことだろっ…!」
(あぁ、もう。)
「奥村くんには敵わんわぁ」
顔が緩むのが止められない。
性急に立ち上がると、恥ずかしさに逃げようとする奥村くんを追いかける。
今すぐ、抱き締めさせてぇな。
*
やはり志摩燐はきゅんきゅんする。
女の子は可愛いと思うけど、ほんとの初恋は燐ちゃん!な志摩が書きたかったのですが、後半ぶれてしまった!(/ω\*)
ほっぺにちゅーが似合う子はなかなかいないぜ!
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