十時間
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70時間前、僕らは、ただの、仲の良い「兄弟」だった。

手さぐりで壁のスイッチを押すと、蛍光灯が室内を照らした。

「へー…すげぇな、なんか、理科室みてぇ」

鍵のかかった硝子棚を珍しげに眺めている兄さんは、本当に無邪気で。

(僕がやましいこと考えてるなんて、思ってもないんだろうな。)


「うお!なんだこれ!すげー…」

兄さんは、試験管の中に入った、キラキラと虹色に光る液体を見つめて目を輝かしている。
その液体は水よりも粘着質で、まるでクラゲが水中を泳ぐように、ゆっくりと輝きを運んでいる。

「なんだと思う?」

「っ…」

抱きしめながらそう言うと、ぎくりと体を強張らせた兄さんの手から、試験官が滑り落ち、カシャンッと高い音を立てて、割れた。

「だめじゃない、兄さん。」

耳元でそう囁くと、小さく震える体。

「ゆき、お、お前、けが、が…」

「神父さんみたいに折れてはないよ。…ヒビは、入ってたけど。」

「…っ」

わざと、兄さんが罪悪感に苛まれて動けないように。

後ろから抱きしめ、兄さんの肩に顎を乗せて、耳たぶにキスを送ると、首筋まで真っ赤にして僅かに身をよじる。

「兄さんが大人しくしてくれたら、ひどくなったりしないんだけど。」

するりとシャツの裾から手を差し入れると、「いやだ、ゆきお」と、小さな声が漏れた。



左手で腹部に巻きついていた尻尾を緩く撫で、空いた右手を前に回すと、シャツのボタンを外していく。

「っう、ンっ…ゆきお、っそれ、やめっ…!」

尻尾をあぐあぐと甘噛みすると、尻尾まで逃げようともがく。

カチャカチャとベルトのバックルを外すと、下着ごと膝まで降ろす。

「っゆきお!っんう」

振りかえって抗議しようとしたその口を自分の唇で塞ぐと、下肢に手を伸ばした。

兄さんが割ってしまった試験管の、隣にならんでいた同じものを手に取る。

「ね、綺麗でしょ、これ。」

兄さんの目の前にそれを持っていって、逆さにして中身を自分の手へと零していく。

「人間にも、悪魔にも、害のない液体なんだ。」

「…え、?」

何のための液体なんだ、と問いかけた兄さんの唇を、べろりと一舐めする。

とっさに顔を伏せてしまった兄さんに、残念に思いながらも、液体で濡らした指をゆっくりと後孔に埋めていく。

「ぐ、ンっ…!は、ふ、ぁ…っ」

少しぬめりのある液体のおかげで、指はぬちゅにちゅと厭らしい音を立てて苦も無く動かせる。

2本の指で入り口を広げるようにして、ぐるりと中を掻き回すと、高い声が室内に響いた。


「ぅう!……?」

ぬぷ、と指を抜くと、さっき空にした試験管を手に取る。

「や、やめっ、…ひうっ」

「兄さん、力抜いてなきゃだめだよ。」

恐らく冷たいであろう その試験管を、ヒクついている後孔にあてがうと、ゆっくりと押しこんでいく。

「あ…あ…、ゆ、ゆき…っひ、」

「まさか、こんなので気持ちよくなっちゃわないよね?あんまりぎゅうぎゅう締めつけたら、…割れちゃうから。」

「っ!!ゆ、きおっ…たのむからっ…やめ、っ」

少しずつ押しこまれていく試験管の感覚が、よほど嫌なのだろう、ぼろ、と蒼眼から涙がこぼれる。

「…凄いんだよ、兄さん。兄さんのナカ、奥まで見えるよ。」

そう言って入り口を舌でなぞると、「あ、」と一瞬、蕩けた声が聞こえた。

内壁は真っ赤に充血していて、試験管に絡みついてうねっている。

「僕のもこんなふうに、飲み込んでくれてるんだ?」

「っう…!」

目をぎゅうと瞑って、左右に首を振って必死に否定する兄さん。

「うそつき。…それに、気持ちよくなっちゃだめって言ったのに…」

あまりの羞恥のせいか、試験管をぎゅうぎゅうに締め付ける内壁を眺めながら、ぴちゃぴちゃと音を立てて入り口の淵を舐める。

「っは…ん、ンッ」

――残念だけど、そろそろ危ないだろうから抜いてあげるよ。

カシンッと高い音を立てて上下の歯で挟むようにして咥えると、ゆっくりと引き抜いていく。

「あ…あう…ふ、っん!」

ソレが抜けると、すっかり安堵したように、蕩けた視線で見上げてくる。

これで終わりなはず、ないじゃない。

あれだけ教えてあげたのに。

――ほんと、ばかだな、兄さん。



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