七十時間 (4/6頁)
70時間前、僕らは、ただの、仲の良い「兄弟」だった。
手さぐりで壁のスイッチを押すと、蛍光灯が室内を照らした。
「へー…すげぇな、なんか、理科室みてぇ」
鍵のかかった硝子棚を珍しげに眺めている兄さんは、本当に無邪気で。
(僕がやましいこと考えてるなんて、思ってもないんだろうな。)
「うお!なんだこれ!すげー…」
兄さんは、試験管の中に入った、キラキラと虹色に光る液体を見つめて目を輝かしている。
その液体は水よりも粘着質で、まるでクラゲが水中を泳ぐように、ゆっくりと輝きを運んでいる。
「なんだと思う?」
「っ…」
抱きしめながらそう言うと、ぎくりと体を強張らせた兄さんの手から、試験官が滑り落ち、カシャンッと高い音を立てて、割れた。
「だめじゃない、兄さん。」
耳元でそう囁くと、小さく震える体。
「ゆき、お、お前、けが、が…」
「神父さんみたいに折れてはないよ。…ヒビは、入ってたけど。」
「…っ」
わざと、兄さんが罪悪感に苛まれて動けないように。
後ろから抱きしめ、兄さんの肩に顎を乗せて、耳たぶにキスを送ると、首筋まで真っ赤にして僅かに身をよじる。
「兄さんが大人しくしてくれたら、ひどくなったりしないんだけど。」
するりとシャツの裾から手を差し入れると、「いやだ、ゆきお」と、小さな声が漏れた。
左手で腹部に巻きついていた尻尾を緩く撫で、空いた右手を前に回すと、シャツのボタンを外していく。
「っう、ンっ…ゆきお、っそれ、やめっ…!」
尻尾をあぐあぐと甘噛みすると、尻尾まで逃げようともがく。
カチャカチャとベルトのバックルを外すと、下着ごと膝まで降ろす。
「っゆきお!っんう」
振りかえって抗議しようとしたその口を自分の唇で塞ぐと、下肢に手を伸ばした。
兄さんが割ってしまった試験管の、隣にならんでいた同じものを手に取る。
「ね、綺麗でしょ、これ。」
兄さんの目の前にそれを持っていって、逆さにして中身を自分の手へと零していく。
「人間にも、悪魔にも、害のない液体なんだ。」
「…え、?」
何のための液体なんだ、と問いかけた兄さんの唇を、べろりと一舐めする。
とっさに顔を伏せてしまった兄さんに、残念に思いながらも、液体で濡らした指をゆっくりと後孔に埋めていく。
「ぐ、ンっ…!は、ふ、ぁ…っ」
少しぬめりのある液体のおかげで、指はぬちゅにちゅと厭らしい音を立てて苦も無く動かせる。
2本の指で入り口を広げるようにして、ぐるりと中を掻き回すと、高い声が室内に響いた。
「ぅう!……?」
ぬぷ、と指を抜くと、さっき空にした試験管を手に取る。
「や、やめっ、…ひうっ」
「兄さん、力抜いてなきゃだめだよ。」
恐らく冷たいであろう その試験管を、ヒクついている後孔にあてがうと、ゆっくりと押しこんでいく。
「あ…あ…、ゆ、ゆき…っひ、」
「まさか、こんなので気持ちよくなっちゃわないよね?あんまりぎゅうぎゅう締めつけたら、…割れちゃうから。」
「っ!!ゆ、きおっ…たのむからっ…やめ、っ」
少しずつ押しこまれていく試験管の感覚が、よほど嫌なのだろう、ぼろ、と蒼眼から涙がこぼれる。
「…凄いんだよ、兄さん。兄さんのナカ、奥まで見えるよ。」
そう言って入り口を舌でなぞると、「あ、」と一瞬、蕩けた声が聞こえた。
内壁は真っ赤に充血していて、試験管に絡みついてうねっている。
「僕のもこんなふうに、飲み込んでくれてるんだ?」
「っう…!」
目をぎゅうと瞑って、左右に首を振って必死に否定する兄さん。
「うそつき。…それに、気持ちよくなっちゃだめって言ったのに…」
あまりの羞恥のせいか、試験管をぎゅうぎゅうに締め付ける内壁を眺めながら、ぴちゃぴちゃと音を立てて入り口の淵を舐める。
「っは…ん、ンッ」
――残念だけど、そろそろ危ないだろうから抜いてあげるよ。
カシンッと高い音を立てて上下の歯で挟むようにして咥えると、ゆっくりと引き抜いていく。
「あ…あう…ふ、っん!」
ソレが抜けると、すっかり安堵したように、蕩けた視線で見上げてくる。
これで終わりなはず、ないじゃない。
あれだけ教えてあげたのに。
――ほんと、ばかだな、兄さん。
Next→