の海
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歯を閉じられないよう親指を兄さんの咥内に差し入れたまま、ふにゅ、と兄さんの柔らかい唇に、固いままの自身を押しつける。

「う…」

「兄さん、舌、出して」

びくりと肩を震わせて、目を泳がせた兄さんに、とどめを刺すように。

「兄さん……して、くれるよね…?僕のこと、拒否しないって…嫌いにならないって、『約束』してくれたもんね、」

「っ、」

息を詰まらせた兄さんが見上げてくる。

――ひどい、こんなことにまで、その「約束」を使うなんて。

そんな、目だ。


ごめんね兄さん。

僕は、兄さんを手に入れたい。

そのためなら、どんな卑怯な手を使うことも厭わない。


一粒だけ、兄さんの蒼眼から、大粒の涙が零れた。

そして、そっと、震える兄さんの舌が、僕の自身の先端に触れた。

ゆっくりと咥内から親指を引き抜くと、優しく髪を梳く。

兄さんの舌が、先端を ぴちゃり ぴちゃり、となぞる。

熱い舌が、兄さんの舌が、僕に触れている。

ぞわぞわと快感が脳を巡る。

「っ…は、ん」

苦しげに鼻から抜ける息使いを聞いているだけで満たされる。
そして満たされるはずなのに、もっと、もっと、と限りない欲が湧いてくる。

僕を拒否しないで。僕を受け止めて。僕を欲しがって。僕で気持ちよくなって。
僕だけを、あいして。


兄さんの後頭部を支えていた左手を引きよせ、逆に腰をわずかに進めると、先端が兄さんの咥内へと埋まる。

「んン…!」

怯えるような目が、僕の中の征服欲を刺激する。

「歯、立てちゃだめだよ。」

じわじわと、奥へと咥内を侵していく。

紅い唇を割っていくその様は、兄さんの後孔に飲み込まれていく時と同じくらい、興奮する。

兄さんの体内に入る、という行為だからか。

「ぐ、ン!んんン!」

く、と先端が喉の奥まで到達すると、吐き気を堪えるように喉の奥が締まった。

裏筋を舌が這い、先端を喉の奥に締め付けられて、思わず息を詰める。

「っは、…兄さん…動かして、いい?」

そう言うと、返事を待たず口の中でゆっくりと自身を擦りつけるように動かした。

「んんン――!!」

噛まれないように兄さんの舌の先端を右手で摘み、逃げられないよう左手は後頭部を押さえる。
そして、ギリギリ喉の奥を突かないように律動を早めていく。

ぷちゅ、ぐちゅ、と。僕の先走りと兄さんの唾液が混ざった音が響く。

「ふ、っ…は、にいさ、もう、イきそう、」

「ンぐッ!…ン!っん!」

「っ…ッん…!ぁ、」

ごぷっ、と兄さんの咥内へと白濁を吐きだすと、兄さんは呻きながら目を見開いた。

「ぅんン…ッ」

「っは、は、…兄さん、飲んで、ぼくの、」

舌を掴んでいた右手を離すと、怯えたようにすぐに奥へと引っ込められる。

吐き出したいのか、逃げるように顔を引いたものの、僕が後頭部を押さえているので抜き去ることができない。

「飲んでくれなきゃ、ずっとこのままだよ?…僕はいいけどね」

ねぇ、兄さん。逃げ場なんてないんだよ。この、僕らだけの部屋には。


だいぶと躊躇した後、ぎゅ、と きつく目を瞑ると、喉仏をヒクつかせながら、少しずつ僕の精液を飲み込んで行く。

4回目でようやく全て飲み込むことのできたのか、「ンう、」と小さく唸り声が聞こえた。

ずるりと咥内から自身を引き抜くと、ぐったりと顔をシーツに伏せ、苦しそうに何度も咳き込む。

「大丈夫?兄さん。…苦しくなくなるまで、練習しようね」

まるで祈るような格好でシーツに顔を伏せたままの兄さんから、ひ、と恐怖の声が漏れた。


だいじょうぶ。なにも、こわくないよ――


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