りの泪
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じりじりと、そこら中にキスをされたり噛みつかれたり舐められたり、そうやって30分は過ごしている。

ただの兄弟喧嘩なら、まだよかった。

愛情のふりをした恐怖が皮膚を這う。

それは攻撃も抵抗も、全てを封じてしまう。


首筋からだんだん下がっていった雪男の舌は、太ももの内側を執拗に舐めている。

「っ、ぅ、ぁ、痛ッ…は、ン」

皮膚の薄いそこを噛まれると、ビリビリとつま先から背筋に電気が走る。

さっき二の腕の内側を噛まれたときも同じ感じがした。

手足の内側って、怪我することもねぇもんな。と、どこか呆けた脳でそう思う。

ハーフパンツは履いたままだから大丈夫、と理由にならない理由をつけて自分を無理やり安心させた。


そう気を抜いていると、つつ、と雪男の舌が太ももの付け根まで這い上がってくる。

「っっあ!ゆき、いやだ…っ…い、たァ!」

嫌だ とか、痛い とか、やめろ、というたびに雪男は強く噛んでくる。

怪我した時とは全然違う種類の痛み。痛みとしては全然マシなはずなのに、どうしてか雪男から与えられる痛みには心底逃げたくなって腰がひける。

また声を殺すように、布団をひっぱってきて噛んでいると、熱い舌は下へと下がっていった。

膝の横のくぼみを執拗に舐められた。

そんなところ、と思いつつも、ぐりぐりと尖らせた舌で舐められているとむず痒くなってくる。

抗議するように足をねじって避けようとすると、ふくらはぎを一度噛まれ、足の裏の、つちふまずの所に思いっきり噛みつかれた。

「いっあア!」

そんなとこ噛むな!と怒鳴ってやろうかと大きく息を吸った途端、ぬるり、と親指と人差し指の間に温かい舌が差し込まれた。

「ひ…ッ!あああ、っ雪男やめ、やめ、う、」

ぐじゅ、と唾液を溜めた熱くぬめった咥内に包まれ、指の付け根を噛まれる。
その責苦は止まらず、そこら中を噛まれた。

「い、あ、あ、ゆき、離、っうあ!」

足の裏なんか噛まれて、へんな声が出るなんて、そんなの知らない。

そんなところ、気持ちいいだなんておかしい。

ずるっ、と唾液にまみれた足の指が解放される。

つま先はひくひくと痙攣したままだ。

「う、ぁア!」

今度は反対の足。

もういやだ、もういやだ、やめてくれ、そう途切れ途切れに訴えるも、一向に離してはくれない。

たまらず解放された右足で、ぐ、と雪男の左肩を押すと、いなすように左手で払い落された。

「ゆき、っ!」

「…だめじゃない、兄さん。僕の勉強、邪魔しないでよ。ね?それとも…」

そうやって近づいてきた雪男の顔に、ぐっと唇をかみしめると、すぐ近くで ふ、と笑う雪男の息が顔に当たった。

「いっっっッ!!」

ぎゅう、と声が詰まるほど股間を握られて、涙の滲む視界で雪男を睨むと、心底楽しそうに、幸せそうに、雪男がほほ笑んだ。

せめてほほ笑む理由を教えてほしかった。

そしてこんなことする理由を。


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