幾年の想いと一夜限りの出会いの行く末は貴方のみぞ知る



数日後―――…
俺は煌びやかな夜のネオン街を歩いていた。その隣には抜群なスタイルの美人な女。お互いに普通の格好ならば恋人同士に見えなくもないはずだ。そう、普通の格好なら。

「…ったく、社長もめんどいこと押しつけんなっつーの。」

「わりぃな、シュラ。」

女の名前はシュラ。彼女は俺たちの両親が他界するまで住んでいた家の近所に住む、少し年の離れた姉ちゃん的存在だった人物だ。結構なヤンチャ者だったみたいだけど、俺たちとはよく一緒に遊んでくれた。
彼女なりにいろいろとあったみたいで、高校を中退して半ば家出のように家を出ていったようだけど、久しぶりの再会を果たしてビックリした。なんとメフィストの経営する高級クラブでホステスをしているという。メフィスト曰く、男でも女でも美しいものを愛でるのは明日への活力、だそうだ。
それにしても雪男やメフィスト、挙げ句の果てにはシュラと、このところビックリさせられることばかりだ。
面倒くさそうな顔をして歩くシュラに一応謝ると、彼女は俺に軽くデコピンをかまし、分厚い財布を扇ぐように振ってにやにや笑った。

「そんな顔すんなって。せっかく可愛くしてやったのが台無しだぜ?まー、社長の奢りでイイ男共とタダ酒たらふく飲めるからいーよ。ていうか、女装までしてそんなに雪男のことが心配なわけ?」

「まぁ、な…」

シュラの格好は胸の谷間を惜しむことなく強調し、サイドには足下から太股の際どいところにかけてスリットの入った鮮やかな赤いドレス。すっげぇ高いピンヒールのパンプスをカツカツ鳴らして颯爽と歩く姿は如何にもバリバリなホステス風の格好で、通りすぎて行く人の注目の的だ。
そして今の俺は、一般的男性からすると相反する相応しくない格好で…
友人の結婚式で着るような濃紺のパーティードレスは過度な露出を控えたものを選んでくれたみたいだが、下がすうすうして変な感じだ。さらには履き慣れないパンプスのせいで足下が覚束ない。バレるといけないからと着用しているストッキングとパット入りのブラジャーは窮屈極まりない。極めつけにウィッグをつけるという徹底ぶりだった。
ちなみにメイクはシュラがしてくれた。俺にはナチュラルメイクの方が似合うと言っていたが、その手のことはあんまりよくわからないから一任したのだった。

「はー、泣かせる話だねぇ。ていうか、お前マジで女みてぇだな。そうだ、うちで働く?よっぽどいい稼ぎになるぜ。ま、私は抜けないだろうけどな。」

ぜってぇやだと言うと、意地悪くケラケラと笑うシュラがピタッと足を止めた。ほらと看板に向かって指差す方向を見上げた。


『BLUE NIGHT』


それが俺らの目的地だった。

「さっ、入るぞ。姿勢と歩き方、それから話し方に気をつけな。」

こくりと頷くと、深呼吸をして一歩を踏み出した。





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