幾年の想いと一夜限りの出会いの行く末は貴方のみぞ知る



居酒屋のバイトって、こんな酒臭くなって帰ってくるような仕事だっけ…?

朝の挨拶を交わすには遅い時間帯に目が覚めて雪男の部屋を覗きに行くと、部屋の主は明らかに疲労と酒臭さを纏ってベッドに倒れ込んでいた。
一体何度目だろう、この光景を目にするのは。今日こそはきちんと話をつけねぇと…
そんな思いを胸に秘め、俺は部屋を後にした。





それは今から3週間前、雪男の大学の前期試験が終わって夏休みに入った初日のことだった。一緒に夕食を食べていると、雪男が明日からバイトを増やすと言い出した。何のバイトかと尋ねれば居酒屋だと言う。今まで家庭教師のバイトをしていたから、掛け持ちで働くには居酒屋は時間帯がいいらしい。

高校入学直前に俺たちは不慮の事故で両親を失った。元々頼れるような身内がいなかった俺たちだったが、何の縁があってか、いくつかの会社を経営しているというメフィスト・フェレスという人物と出会い、ひょんなことから後見人となって俺たちに最低限の援助をしてくれることとなった。今住んでいるマンションのオーナーもメフィストだったりするのだ。
けれど、成人を迎えた俺たちはヤツに頼りっぱなしなのも気が引けるので、今ではお互いにバイトとそれなりに倹約した上で、それでも足りない分を援助してもらって生活を送っている。ちなみに首席である雪男の学費は奨学金をもらっている。
それでも雪男が言うには、これからはお金がますます入り用になるらしいし、現状を維持あるいは少しでもゆとりのある生活をしたいらしい。そのために掛け持ちで働きたいのだと。
兄として唯一の肉親である弟に無理をさせるのはもちろん嫌だった。ただ、一度決めたことを容易く曲げるような性格ではないことは百も承知だ。生まれてこの方、伊達に双子の兄をやっちゃいない。
だから、無理だけはすんなよときつく釘を刺しておいた。

そして、その約束は見事に破られてしまったのだった。




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