◎ 断罪の鐘
※雪→燐 無理矢理
鍵を使ってあの場所から逃げるように帰ってきた自室が、暗闇であることに心底ほっとした。
気を緩めた瞬間、どろり、と太股を伝う、何か。何か、なんて言い代えなくたって解ってるけど。
「――ぅ、」
腹の中が重い。次から次へとこぷりと溢れてくるその感覚が気持ち悪くて、よろよろと壁伝いに部屋を出た。
制服を脱げば、いたるところに紅い湿疹みたいな痕がついてる。ズボンを脱ぎすてれば下着から溢れたモノで汚れていて、べたべたとしたそれが染みを作っていた。
ひくり、と喉が引き攣る。
泣いてしまいたかった。でも今、泣いてしまったら今日のことを忘れられない気がして、許せない気がして、唇を噛んで耐えた。
脱いだ服を全部洗濯機に押し込んで、スイッチを押すと風呂場に入る。
重くてダルい腰を風呂場の椅子へと降ろし、シャワーのコックを捻る。
熱いお湯を頭からかぶりながら、そっと目を閉じた。
*
「兄さん、ただい…ま、」
任務先から直接部屋へと戻ると、電気はついておらず、室内は真っ暗だった。
今日は勝呂くんや志摩くんと勉強会(というのは建前だと解っているけれど)をしに、彼らの寮に行くのだと言っていた。
「…まだ戻ってないのか。」
ちらりと壁の時計を見れば、10時を少し回ったところだ。
初めて友達と呼べる存在が出来た兄さんにとっては、友達と過ごすのは楽しいのかもしれない。
「兄離れ、しないと…ね。」
チクリと痛んだ胸を、嘲笑うように小さく吐き捨てた。
この感情がそんなものではないと知りながら。
階段を降りて台所へと向かう途中、ピー、ピーと聞きなれた音が聞こえた。
(?洗濯機?)
1階まで降りると、風呂場から漏れた明かりが廊下に差し込んでいるのが見える。
(帰ってきてるんだ、)
ホッとしたように、「ただいま」と声をかけようとその場所へと向かった。
脱衣所を通り過ぎるときに気付いた、小さな違和感。制服も、着替えもない。
そういえば、と思い出して脱衣所の隣にある洗濯機の蓋を開けてみれば、脱水の終わったくしゃくしゃの制服が入っていた。
『制服は洗濯機に突っ込むなよ!クリーニングだからな!』
家事の知識だけは僕よりずっと上な兄さんが言っていた言葉を思い出す。
それと同時、背中を走る氷のような冷たい冷気。
ひたり、と足音を殺して脱衣所に戻ると、奥の風呂場の扉をそっと開けた。
ザアア、と出しっぱなしのシャワーを頭からかぶるようにして、茫然と座り込んでいる兄さんの姿が目に飛び込んでくる。
そして、その胸や腹部には、おびただしい鬱血の痕。
頭の中が一瞬で冷え、一瞬で沸騰したのが解った。
バンッ!!
勢いよく扉を開くと、びくっと兄さんが跳ねるように驚いて、立ちあがった。
「っゆ、きお…、な、なんだよ、びっくり…すんだろ!おかえり、ってお前っ…」
服が濡れるのも気にせず、タイルの上をひたひたと歩いて兄さんに近づく。
「お前、何やってんだよ!濡れて――ッっぅ、」
ひくりと体を強張らせた兄さんを不審な眼で見れば、どろどろと兄さんの内股を、白濁が伝っていくのが見えた。
――穢された――
ざわりと自分の中に潜んでいた狂気が、叫んだ。
「ねぇ…『何』を、してたの?彼らと。」
ぎりっと僕よりも細い手首を掴めば、兄さんが顔を強張らせ、目を泳がせる。
「雪男、っイ、いた、い…っ」
キシキシと骨が軋む音が聞こえそうなくらいに強く握りしめる。
「答えて…兄さん。コレ、何?」
く、と胸元の紅い鬱血を親指で押せば、かあっと兄さんの顔に熱が溜まる。
「これ、は?」
「っや、やめッ!!」
太股を伝う精液を指で掬って目の前に翳してやれば、目を瞑って顔を背けた。
「…はは、…なぁんだ。…馬鹿みたい。」
「……ゆ、き…?」
急に笑いだした僕に、怯えるように兄さんが僕の名前を呼んだ。
「なんで今まで我慢してきたんだろう。…他人に取られるくらいなら、先に穢してやればよかった。」
悪魔と呼ばれながら誰よりも無垢であった彼を。兄を。
悲しさと虚無感が僕を包み、その後に残ったのは、憎しみだった。
頭を打たないように腕を掴んだまま、足を引っ掛けて転ばせるようにして冷たいタイルへと横たえる。
「っ痛!ゆ、ゆきおっ、なに――」
「何するんだ、って?決まってるじゃない。セックスするんだよ。ねぇ、これ、誰の精液?ナカに出されて、そのまま帰ってきたんだ?」
うつ伏せにさせると、太股の上に圧し掛かるように膝を乗せて体重をかける。
白濁を零すそこに2本の指を添えると、遠慮なく挿入していく。ぐちょり、と難なく飲み込んでしまう後孔は、清らかさの欠片も見当たらなかった。
指を折り曲げ鉤のようにして、兄さんの胎内を汚す白濁を掻きだす。
「ひあ゛っ!!あぁああっやあっ!ゆき、ゆきおっ…やめ、っや…!!」
何度も何度もその行為を繰りかえす。奥から奥から溢れてくる他人の体液に、吐き気すら起こってくる。
チッと舌打ちすると、シャワーヘッドを掴んで、片方の指で入り口を広げたまま、そこに押しあてた。
「やああぁああ!!ひっ、ひ、いあ!!雪…っやめ…あ゛!あ゛!」
強い水流のおかげで、体内には順調にお湯が送り込まれているようだった。
腹部に手を当てると、少しだけ膨れているのがわかり、シャワーの水流を止めてやる。
代わりにまた指を2本差し込んで、内壁を穢すそれをこそぎ取るように指の腹で引っ掻き回す。
「綺麗にしてあげるから。ねぇ、兄さん。嬉しいよね?」
体内で揺れるお湯の感覚、体内を掻きまわされる感覚。それらに脂汗を浮かべながら兄さんがぎゅっと目を瞑って耐えている。
仕方ないよね、綺麗にするためだもの。ちょっとくらい、苦しいことも、恥ずかしいことも――耐えられるよね?
指を引き抜くと、釣られて溢れそうになったお湯を引きとめるかのように、兄さんの後孔はきゅっと口を噤んだ。
「だめだよ、ほら…」
噤んだ入り口をこじ開けるようにまた中指と人差し指を差し込んで、ぐっと左右に開いてやる。
「あぁぁああっ…や…やだ…っ雪男、見、るな…っ」
とろとろと、透明なお湯に汚れた白濁が混じったものが溢れてくる。
「こんなんじゃだめ。…全部、出して。」
反対側の手を背中に当てると、体重をかけるように上から押す。
「ひっ!!い、いや、やああ゛ああ゛あ!!!」
お湯の溜まった腹部が床に押さえつけられ、ごぽりと開けた後孔から大量のお湯が溢れた。
「あ…あ…っ」
ぶるぶると震える体に覆いかぶさるように、抱きしめてあげる。
「きれいになるまで、がんばろうね。」
僕の言葉に振り返った兄さんは、涙と鼻水と涎でぐしゃぐしゃになっていて、とても卑猥で可愛らしかった。
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