断罪の鐘2 | ナノ


断罪の鐘


今まで失恋なんてしたことなかった。
想いを伝えてあんなに戸惑った顔をして流されたことはなかった。

俺と坊の間に生まれた、妙な慰めあいの空気が現在の状況を生んでいる。

「ひっ、い、嫌だ、や、っうあ!」

耳の裏側や首筋を舐めながら、後ろから両手を回して胸の突起をカリカリと爪先でひっかいてやれば、ぴくぴくと小さく体が跳ねる。
そんな俺の前では、奥村くんの両足の間に顔を埋めている坊。ぴちゃぴちゃと卑猥な音が奥村くんに似合わなくて、でも下着とズボンが足首で絡まった左足が時折跳ねるのが背徳的で、背筋がぞくぞくした。
怯え掠れた声に罪悪感なんて一つも生まれることもなく、ただただ煽られる。

「あ、あ、だめ…や、すぐろ!くち、離しっ…や、ああっあア!!」

がり、とうなじを噛んだ瞬間、奥村くんがびくんと痙攣する。
奥村くんの自身から口を離した坊の喉がごくりと鳴った。

「なん、もしかして噛まれるん気持ちええん?」

「ちが…ちがう…っびっくり、して、」

耳元で囁いてやれば、ぽろぽろと涙を流して首を振って否定する。

びっくりしたらイくってなんなん。
嘘はあかんで、奥村くん。

少し体をずらして奥村くんの上体を坊に預け、腰を掴んで力任せに引き上げる。
膝立ちになった格好で奥村くんが振り返って不安げに俺を見る。

「奥村、」

その視線を引きもどすように、坊が奥村くんの頭を支えて向き直らせ、深くキスをする。

「んっう、うぅん、むぅっ!」

ぎし、と手首を縛っているネクタイの繊維が軋む音。

「奥村くん…、逃げたかったら、青い炎で俺等を焼き殺せばええよ。」

後ろから静かに囁くと、ぴたりともがく体が止まる。表情は見えなかったけれど、ぱたた、と床に涙が零れ落ちた。

青い炎で、悪魔の力で、人を傷付けることを一番恐れている彼にとって、一番残酷な言葉を。

抵抗の力を失い、掌だけがきつく握りしめられている。憎いだろうか、怖いだろうか、俺達が。

でもな、笑って流されるんは、拒絶されるより辛いんや。


「気持ちよぉしたるから、」

坊の鞄の中からハンドクリームを勝手に取り出すと、キャップを開けてチューブの先を奥村くんの後孔の入り口へと押しあてる。

「ひっあ、う!」一気に中身を絞りだすと、その冷たさに甲高い悲鳴のような声があがった。

少し残ったハンドクリームを右手の指に塗りたくり、口を噤むその入り口にゆっくりと挿していく。

「ひ、っひぅ…や、あ、っなに、」

ぶるぶると震えだした太股を左手で摩りながら、少し抜いてはまた奥へと指を潜り込ませる。
入り口はキツくて、中はあったかくて以外と柔らかい。
ぬぷ、ぬぷと粘着質な音を立てて抜き差しを繰り返す。

振り返ろうにも坊が頭を固定していてそれを許さず、体内を掻き混ぜられるその感覚に怯える奥村くんは、ネクタイで戒められた腕にぶわりと鳥肌を立たせた。

指1本がほとんど埋まったところで、ぐるりと内壁の全面を掻いてみる。

「うああッ!!?」

微かに膨らんだ内壁の一部を掠った瞬間、驚いたような声があがり、入り口がきゅううと締まる。

「…ここ?」

「ひあ!あ!!やああっ…!!」

ぐっぐっとその膨らみを押し上げると、俺の指の動きに合わせてびくんびくんと体が跳ねる。

萎えていた奥村くんの自身が再びゆっくりと固さを取り戻していくのが見える。

「気持ちぃ?」

入り口ぎりぎりのところまで引き抜いて、今度は人差し指と中指の2本を纏めて入り口を割っていく。

「んう、うああ…っやだ、や、っンんぅ」

きゅうきゅうと締まる後孔は狭いが、どれだけ力を入れてもハンドクリームの滑りを借りた指はぬるぬると奥まで入り込む。

息を荒くした奥村くんは、坊にまた口を塞がれて苦しそうなくぐもった声を上げる。
涙とは違う、どちらのものか分からない唾液がぼたりと床に落ちた。

「まだキツいかもせんけど、」

カチャカチャとベルトを外すと、坊が奥村くんから口を離して睨んでくる。

「おい、志摩、」

「ええやんか、坊は奥村くんのファーストキス奪ったんやもん。」

――知らんふりしとったくせに。俺が奥村くんを好きなことも、坊自身が奥村くんを好きなことも、気付いてへんふりしとったくせに。

そんな思いを込めてじとりと睨み返せば、坊が微かに目を泳がせる。

「…わかった。」

――ほら、な。自分が暴走するなんて思ってへんかったんやろ。

人の意志なんて弱いものだ。特に、恋愛面においては。

何を言えば相手が戸惑うかなんて、手にとるように分かる俺にとっては、奥村くんと坊は一番得意なタイプだ。

――阿呆やなぁ。こんなん、奪ったモン勝ちやねんで。

ふふ、と笑ってみせると、埋め込んだ指を引き抜き、両手で奥村くんの腰を掴む。
悪魔の力に頼った馬鹿力はあまり筋力を使わないのか、俺なんかよりずっと細い腰。

「あ…あっ…ぐ…ッ!」

じりじりと狭い入り口が俺のもので拡げられていくさまは、たまらない快感だった。

「っ…きっつ、…は、っ」

ぎゅうぎゅうと締めつける狭い入り口を越えれば、絡みつく内壁がぴっとりと纏わりつく。

がちがちに緊張しきった全身を見て、尚更自分の想いが一方通行なのだと思い知らされた。

それでも、奥村くんのなかに、傷痕としてでも居座りたいのだ。

「あぁぁ、ひ、ひっ…」

ずるずると自身を引けば、まとわりつくように僅かに捲れた内壁が白と紅のコントラストを生む。

汚すように、傷付けるように。まだ衝撃に慣れていない体を割り開くように、一番奥まで穿った。

「やあ゛!あぁあ゛ぁぁっ!お、おく…っこわ、い…!」

さきほどよりも深い侵入に痩躯が震えだす。「怖い」なんて言葉、奥村くんの口から初めて聞いた。

ごめん、ごめんな。


ほんまごめん。傷付けさせて、奥村くん。





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