断罪の鐘1 | ナノ


断罪の鐘


※勝+志摩×燐
 無理矢理



すうすうと、背後から規則正しい小さな寝息が聞こえてくる。

さっきまで志摩と二人でゲームをしていたのに、志摩が飲み物を買いに行っている僅かな時間に、寝こけているらしい。

「…奥村?」

寝息の元である奥村は、ベッドに背を預けるようにして眠っている。

「お前、授業中も寝とったやんけ。」

ふ、と思わず笑いが零れる。

朝は遅刻するし、学校でも『奥村兄″は弟″と違って、いつも寝てるかサボっている』なんて噂を聞くし、塾でも実地訓練以外はほとんど舟を漕いでいる。

「ほんま、どんだけ寝んねん。」

くしゃりと柔らかな髪に指を絡ませると、ん、と鼻にかかるような声が漏れた。

ドクリと心臓が跳ねる。

押し殺していた感情が、理性の隙間から溢れ出るように。

「――おく、むら」

すぐ近くで名前を呼んでも、全く起きる気配もない。

頭の中は真っ白だった。
ただ、引き寄せられるように、薄く開いた朱い唇に自分のそれを重ねた。「なに、してんの…坊…」



震えた声が、氷のような冷たさで耳に届く。

勢いよく飛び退いて振り返れば、ドアを開いた志摩がペットボトル3本をかかえたまま、茫然と立っていた。

なに、を?
ぐるぐると言い訳や屁理屈が頭の中を巡ったけれど、志摩の表情を見て喉が引き攣ったように声が出なかった。

この眼は――俺と、おなじ――

「俺のほうが…っ奥村くんのこと好きやのに!!」

俺の思考を読みあてたかのように、志摩が叫ぶ。

小さい頃から一緒に居たから分かる。
へらへらして面倒臭がりで来るもの拒まず去るもの追わず、興味津津なフリが得意で、けれど何にも執着しない奴だと思ってた。

女子を好きだの可愛いだの、まるで口癖になっているかのようなセリフを毎日隣で聞いていた。

そんな志摩の、聞いたことのないくらい、悲痛な声。

「坊が奥村くんを好きなんは見て分かっとった!!けどっ、坊は知らんフリしとったやん!自分で気付いてないフリしとったくせに…っ」

「――っ!!!…志摩、おまえ、」

ざあっと顔に一気に熱が溜まっていく。
自分で完璧に押し殺せていたと思っていた感情を、見られていたのだ、ずっと。
ずっと隣で、同じ感情を持つ志摩に。

「最後まで貫き通してぇな…坊っ…」

『普通』の感情じゃないと、押し殺していた。


「…すまん、志摩。俺は……っ奥村が、好きや…」


しん、と静まり返った部屋で、いつの間にか規則正しい寝息が聞こえなくなっていることに気付いた。

「…す、勝呂…志摩…あ、あの、さ。」

奥村に覆いかぶさるような格好で怒鳴りあいをしていたのだ。さすがの奥村だって、起きるに決まってる。
そんな事実を理解しつつも、どう対処していいか分からなかった。

「お、俺も好きだぜ、二人とも!」

俺とベッドに挟まれたまま苦笑いをする奥村を見て、この気持ちが完全に伝わってしまったことを知った。

そして、流されたことも。

あれだけ押し殺して、あれだけ自分でも見ぬフリを決め込んでいた感情を、流されて我慢できなかったなんて、そんなのただのエゴだと分かっていた。

「んうっ!!?」

顎を押さえて逃げられないようにして口づけると、くぐもった声が口の中から聞こえた。「ちょっ…坊!!」

ぐいっと志摩に首筋を後ろからひっぱられて、苦しさに思わず口を離せば、真っ赤になって手の甲で唇を押さえる奥村が視界に映った。

「…こういう、意味でお前が好きや。…奥村。」

俺の襟を掴む志摩の手が怒りに震えるのがわかった。
どんっと突き飛ばされると同時に見えたのは、志摩が奥村に覆いかぶさる姿。

「んン、っ!?」

「…っ、俺かて…坊に負けんくらい、坊よりずっと奥村くんのことが、…すきや。」

声に熱が移ったかのように、熱い声。

戸惑いに奥村の蒼瞳が揺れる。

「…坊、俺…ゆずられへん。」

振り返った志摩が、苦しそうに呟いた。

「…俺も、譲れん…。」

沈黙が辺りを包んで、俺と志摩のぶつかりあう視線の間に、答えが見えた気がした。

その答えが間違っていることを知りながら。






*






何かが唇に触れた感覚がして、ふわふわと眠りが覚めていく。

目を覚ました俺の前で、勝呂と志摩が喧嘩をしてて、驚くよりも先にその喧嘩の原因が俺なことに言葉を失う。

志摩が、俺のことが、すき?

勝呂も、俺のことが、すき?

その声があまりに真剣で、怖くなる。友達として好きでいてくれてるなら嬉しい。願うように思わず笑って俺も好きだと言えば、返ってきたのは怒りを含んだ口づけだった。
志摩にもキスされて、


暫く無言で睨みあっていた志摩と勝呂の目が俺の方に向く。

しゅるりと志摩が緩めていたネクタイを外して、抱きしめられたと思ったら腕をひっぱられて後手に手首を括られる。

「ちょっ…やめっ、」

ぐ、と力を入れれば志摩のネクタイが千切れてしまいそうで、躊躇っているとべろりと耳を舐められた。

「ひ、ぅあ、」

びっくりしていると、まるで別の生き物みたいな志摩の熱くて湿った舌が、耳の中まで入り込んできた。

「あ…あ!やめっ!しま!!ぅあ、っ」

背中を思わず反らしてしまうほどぞわぞわして、鼓膜のすぐ近くで、くちゅくちゅと濡れた音がする。

「し、っんう!!」

志摩、と呼ぼうとした口は勝呂に塞がれて、上手く息ができなくて頭がぼうっとしてくる。
ベッドに凭れていた体をひっぱられて、志摩に背中を預けるようにして後ろから抱きしめられた。

怖くて、どうしていいのかわからなくて。

ひやりとした志摩の手が首筋をなぞり、いつのまにか3つめまで外されていたシャツのボタンのせいで、前からは勝呂に胸を撫でられる。

「おくむら、」

「や…っすぐ、ろっ…!」

勝呂の熱い息がかかって、ぴちゃりと胸を舐められる。他人に肌を舐められたことなんてない。ぬるぬると舌が這い、吸われた所からじんわりと変な熱が生まれる。

「い、やだ…っう、あ!」

「ふふ、奥村くん耳弱いんや、」

「こっちも、な。」

胸の突起を吸い上げられて、ひくりと腹筋が震えた。



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