※付き合っていますが無理矢理系
心臓の辺りに小さな火が灯り、チリチリと、少しずつ焦げていくような感覚。
いつか、こんな日が来ると思っていた。
この小さな火が燃え上がって、俺を、彼を、のみ込んでしまう日が。
ほのお
「奥村くん、坊にべたべたしすぎちゃう?」
眉間に皺を寄せたままそう言えば、奥村くんが考えこむように、同じように眉間に皺を寄せた。
「……なんで?勝呂は友達だろ」
シャリシャリとアイスを噛みながら、坊に貰ったヘアピンで前髪を留め、坊に借りたノートを写してる奥村くん。
『すぐろー!寝ちまった!ノート写させてくれ!』
『はァ?またか阿呆。』
坊の首に細い腕を巻きつかせて、カラコロと笑う彼を見たのは、今日の夕方のことだった。
こんなの、いつものこと。
そうだ。彼にとっては、普通の、こと。
あの、キツい言葉を吐きながら甘やかす弟としか関わってこなかった彼にとっては、ソレが普通なのか。
そう思って我慢を繰り返しても、この燻りは消えてくれなくて。
――助けてや、奥村くん。焼かれしまいそうや。
自分の嫉妬心に。
「勝呂は友達だろ」とのたまう奥村くんに、「トモダチの度合いを越している」と返せば、ふくれっ面でノートに向き直ってしまった。
「…わかんねぇ!」
カリカリとノートを写す音と、シャリシャリとアイスを齧る音。
火が燃え上がる音が聞こえた気がした。
「…ほな、わからしたるわ。」
怪訝な顔をして見上げてきた奥村くんが、サッと顔色を変える。
――失礼な子ぉやな。そんな怖い顔しとる?俺。
アイスを持ったままの細い手首を掴んで机から引きずり下ろすと、ドンッと床に叩きつけるようにして押し倒した。
「し、まっ…!!」
べちゃりとアイスが床に落ちた音がして、奥村くんの大きな蒼い眼が、零れ落ちてしまいそうなほどに見開かれた。
「んうっ」
噛みつくようにキスをすると、震える瞼が条件反射で閉じられる。
「ん、んんっ…あ、なに、怒って…っ」
「奥村くんが誰のモンか、分からしたろ思て。」
彼には理解できないのだ。俺の気持ちも、俺が何故苛立つかも。
どこかで、俺は奥村くんの答えを知っていたのかもしれない。
だって――
「ひっ、…し、しま…っ!?」
――おしおきせなあかんような気ぃ、してたもん。
鞄の中から使い込まれたような古い縄を取り出して、俺は嗤った。
*
志摩のことだけ、特別に好きなのに。
なのに、志摩は信じてくれない。
すぐに勝呂と仲良くしすぎだとか、兄弟なのに雪男とべたべたしすぎだとか言ってくる。
「や、っ嫌だ、何だよこれっ…」
腕にゆるく巻き付けられて結ばれているだけの縄が、まるで罪人の手枷のように重くて、体中から力が抜けていく。
「ウチの納屋にずうっと仕舞ってあった対悪魔用の拘束縄やで。この前帰省した時に持って帰ってきてん。」
やっぱり、効くんやね。と、楽しそうに志摩が笑う。
「外せ、よ…っこれ、や…っ」
力の入らない足からズボンを引き抜かれて、ナニをされるのか、分かってしまった。
「っ…!!い、嫌だ!!志摩、志摩っ…う、あ!」
ぎゅううとキツく自身を握りこまれて痛みに顔を顰めると、志摩の静かな声が落ちてくる。
「奥村くんが悪いんやんか。坊と若先生のことばっか。なぁ、俺のこと好きやゆうてくれたん、あれ、嘘?」
あまりに予想外の志摩の言葉に、俺は返す言葉を失ってしまった。
否定すればいいのか、怒ればいいのか、悲しめばいいのか。
どうしたって今の志摩には届かない気がして。
「志摩っ…ちゃんと、話…っぅう!!」
どろりとした冷たいジェルみたいなのを、大量に腹の上にぶちまけられて、冷たさに息を呑む。
「聞きとうない…もう。言い訳も、坊の名前も、若先生の名前も。」
「むぐぅっ!!」
くしゃくしゃに丸められた自分の下着を口の中に突っ込まれて、吐き出せないように上からタオルを噛まされる。
ぐっと襟足を巻き込んで首の後ろでキツく結ばれた感触に暴れようとしても、力が入らないせいで僅かに身じろぎしただけで終わってしまう。
「うう゛ぅ!」
志摩、と紡ごうとした言葉さえ、封じられてしまった。