ごほうび2 | ナノ


ごほうび(2/3頁)


薬を調合して瘴気に当てられた人達の手当てを終えた僕は、今度は前線の手伝いへと回された。
ドンッドンッと銃声が響く中、予備の銃弾を装備しながらぼうっと考える。

腕を拘束したのはちょっとひどかったかなと思うけど、すぐに恥ずかしがる兄さんは勝手に抜いて、勝手にお風呂に入って、勝手に僕が帰ってくる前に全部片付けてしまうだろうから。

(そんなの、だめだよ)

ゆらりと背後に現れた悪魔を振り返りもせずに打ち抜くと、ゆっくり歩きながら一番上級の悪魔の核に6発連続で弾丸を撃ち込んだ。










「いやあ、さすがですねー」

僕よりも10歳ほど年上であろう祓魔師の青年に少し引き攣った笑顔でそう言われる。

自分よりずっと子供にへつらって屈辱の一つも感じないのだろうかと内心皮肉を思いながら、彼と同じように笑顔を返す。

「それで…もう1件、手伝っていただきたい任務があるんですが…。あの、ほら、あいつらも病院で診せてやらないといけないし、人手が…」

青年はちらりとさっき僕が手当てした仲間達を見やる。

6人編成のチームで、3人が抜ければ次の任務はまともにこなせるか危うい。

「上に聞いてみます。」

そう言って携帯を取り出したが、どうせ上に言ったって補佐を頼まれるのは見えている。
諦めて携帯の発信履歴から兄さんの番号を呼び出すと、その場を離れた。




いつもよりだいぶと長いコール音に疑問符を浮かべたが、そういえば腕を拘束してきたんだったと思い出す。
一応ベッドサイドに携帯は置いてあるし、腕も少しは動かせるはずだから取れないことはないとは思うのだが。

ゆうに20回はコールしてから、ガササッというノイズと共に繋がった音が聞こえた。

「兄さん?」

『…っゆきお…?…っゆき、はや、く…はやくかえってきて…っ、ゆき、っ』

蕩けた声。はあはあと荒い息が携帯の向こうから聞こえる。

「ごめんね、早く帰ってあげたいんだけど、もう1件任務入っちゃったんだ」

出来るだけ申し訳なさそうな声を出すと、ひく、としゃくりあげる声。

『そ、んな、…おれ、もう…っ』

「待ってて、兄さん。ちゃんと僕のいいつけ守って『ひとり遊び』上手にできたら、ごほうびあげる。……ね?」

いつもよりも低い声で、そっと囁くようにそう言えば、「ぁ、」と吐息みたいに漏れる官能的な声が聞こえた。

あいしてるよ、と伝えて通話を切る。
漏れてしまいそうな笑みを押し殺してメンバーの元へと戻った。

荒い息。限界を訴える声。僕だけのことを考えて、僕の帰りをただ待ち続ける兄さんが愛おしすぎて、反応しそうな下肢を落ち着かせるように深呼吸した。





*





頭がおかしくなりそうだった。

雪男が出て行って1時間が過ぎた頃にはもう、何度も訪れる絶頂のせいで意識がくらくらして、それでも止んでくれない快楽から逃げることもできずに、布団の上で一人のたうち回っていた。

それからどれくらいの時間が経ったのか、無理やり引きだされる快感に朦朧とする意識が、また快感によって引きもどされる…そんな波を何度も何度もやりすごして、気が付けばシーツは大量の水気を吸って肌が触れるたびに冷たかった。

「っひあ、…あぁああ、あ、っふぁ…っ」

体の中で動くソレが前立腺を掠めるたび、勝手に声が漏れる。もう声を押さえることすらできなくて、ずっと無意味な音を零し続けているせいで喉がカラカラで引き攣れている。

「ひ、うあっア――!」

横を向いて蹲ったまま、びくびくと体を震わせる。勢いのない透明な精液がとろとろとシーツに染みを作った。
もう何回目かも分からなくなった絶頂に疲れて、ぼろぼろと涙がこぼれてくる。

窓から差し込む光は、雨のせいでほとんど明かりの役目を果たさない。そんな薄暗い部屋の中で、冷たいシーツの上で、自分だけが発熱したように熱くて。

静かな部屋には、自分の腹部から聞こえる機械音と自分の荒い息だけ。

「ゆき…、ゆきお、っ」

まるで応えるように、携帯が鳴った。



――もう1件任務入っちゃったんだ

「今から帰るよ」。その言葉だと思ったのに。その言葉を待っていたのに。

ようやく解放されるのだと、もうすぐ雪男が帰ってくるんだと、そんな期待と安堵を砕かれて、一気にぶわりと体中から汗が噴き出る。

「そ、んな、…おれ、もう…っ」

持たない。もう本当に限界なんだ。しゃくりあげて頼んでも、雪男はごめんねと言うだけで。

『ちゃんと僕のいいつけ守って「ひとり遊び」上手にできたら、ごほうびあげる。』

熱の籠った雪男の声に、気が付けばまたとろりと蜜を零していた。



それからまた、どれだけの時間が経ったのかわからない。

外は相変わらずしとしとと静かに雨が降っていて、時間感覚を麻痺させた。


空腹感なんて分からなくなるくらいに掻き回されていたそれが、ヴヴ、と体内で痙攣するように震えてぴたりと動かなくなったのはつい先ほどのことだった。

何時間も擦られ続けた内壁がジンジンして、急に止まった異物をぎゅうぎゅうと勝手に締めつけるように動くのがわかる。

「う、うーっ…はあっ、あ、」

少し体を動かすだけでナカが擦れて、だけど絶頂には程遠い刺激。
逆にじっとして眠ってしまおうと思っても、コントロールのできない内壁が勝手に動いて、勝手に体内のモノを締め付けてはまたじわりと熱を生む。

あれだけもうイきたくないと思っていたのに、じりじりと襲ってくる少しだけの快楽は生殺しで。


火照った体は冷めることも、絶頂を味わうこともなくなった。

それが更に苦痛をもたらすことを知った。


「あ、あ…ぁあ、っ」たすけて、たすけて、ゆきお、

その瞬間、パチっと音がして、辺りが真っ白に見えるくらいに明るくなった。

「ただいま、兄さん。ごめんね。…いいこにしてた?」

電話じゃない。雪男の肉声が鼓膜を揺らし、射精感にぶるりと体を震わせた。



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